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青森県視察総括コメント
  
地域社会が拠って立つもの

  鷹取 敦
環境総合研究所(東京都目黒区)

掲載日:2014年5月22日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁





 今回の3日間の青森視察のうち2日間に参加した。2日間の間に訪れた場所は、主に下北半島に位置し、戊申戦争・斗南藩関係史跡、歴史・郷土関連施設、地域の歴史や自然環境に根付いた農業・漁業関連・寺、風力発電施設、原発関連施設・PR館等、役場・空港等の公共施設に分類できる多様な場所や施設であった。

 下北地方(むつ市、風間浦村、大間町、佐井村、東通村)は「西通り」、「北通り」、「東通り」の3地方に区分される。西通りは陸奥湾に面しており、夏は暑く、冬は雪が多い。北通りは津軽海峡に面しており、風が強く、雪は少ない。東通りは津軽海峡と太平洋に面しており、山間部は雪が多いが、沿岸部では少ない。一方、上北郡のうち横浜町、野辺地町は陸奥湾に面しており、西通りと同様雪が多く、六カ所村は太平洋に面しており、東通りと同様、山間部では雪が多く、沿岸部では少ない。


出典:下北弁辞典

 このように同じ下北半島でも、地域により自然環境の特徴が大きく異なるが、会津藩がこの地で斗南藩として再興を許された時、火山灰地質の厳寒不毛の地で名目3万石が実質7千石あまりだったことに象徴されるよう、極めて厳しい地方であったことは、今回訪れた斗南藩関連史跡や、郷土館、先人記念館からよく分かった。郷土館の展示の中心が、縄文時代の住居を復元したもので、地域の歴史を学べるようなものがほとんどないのは、このような自然環境による歴史を反映しているのかもしれないと思った。


旧斗南藩墳墓の地
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-17

 このような自然環境と歴史と対照的なのが、数多く立地している風力発電の風車と、原発関連施設、そして東通村役場や周辺の学校の校舎に見られるような、過剰に立派なハコモノであった。原発、使用済み核燃料の再処理施設、中間貯蔵施設、そして原子力船むつ等は、厳しく貧しかった地方に、交付金等や雇用というアメとともに押しつけられてきた、他の地方で受け入れたがらない種類の施設であり、そのアメによって建設されてきたのが立派なハコモノである。施設における直接、間接の雇用機会はともかく、ハコモノは地域の振興に役に立っているようには全く見えなかった。そして雇用機会も、福島第一原発の過酷事故後には、そこで顕在化したリスクとともに、失われると困る一方で、必ずしも喜ばしいものとは言えなくなったのではないだろうか。


原子力船むつの原子炉室の展示
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-17


東通村役場庁舎
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-18

 一方で、横浜村の菜の花フェスティバル、恐山、そして有名な大間のマグロや横浜村の道の駅で食べたホタテに代表される海産物などの海と山の幸、そして自然環境を活かしたエネルギー源である風力発電は、この地域の特色を活かした、地域に根を張った産業、観光資源であると感じた。風力発電は低周波騒音の問題やシャドーフリッカー(風車のブレードの影がちらちらとかかることによって生じる現象)の問題が指摘されているが、下北半島では風車の間近に民家は少なく、近くで見学していてもそのような不快感等を感じることはなかった。風力発電の立地条件としても恵まれている。


横浜町の菜の花フェスティバルの会場より菜の花と風力発電
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-17


恐山
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-18

 福島第一原発事故以後、全国の原発の再稼働が困難となり、いみじくも視察の直後(2014年5月21日)には、福井湾の大飯原発3号機、4号機の運転再稼働を差し止める判決が福井地裁で出された。この判決が高裁、最高裁で維持されるかどうかは不透明であるし、原発に積極的な現政権によって、今後再稼働される原発が出てくる可能性はある。しかし原発をとりまく環境は厳しく、さらに事故の可能性も考えると、地域社会が原発に依存しつづけることは、大きなリスクをはらんでいる。地域の自然環境、歴史、観光資源を活かした経済、社会への構造転換がいやおうなしに求められる時代ではないだろうか。そしてそれは、地方へエネルギー供給を依存し、リスクを押しつけてきた大都市の住民も共有すべき問題であると思う青森訪問であった。