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サンプロの「トヨタ特集」と
「トヨタの正体」


鷹取 敦

掲載日:2006年11月28日


 11月26日のサンデー・プロジェクト(テレビ朝日系列)の特集には唖然とさせられた。

 司会の田原総一朗氏の「独占!張会長が語るトヨタの強さの秘密・『ものづくり』最前線で見た!勝ち続ける極意」と題されたコーナーである。

 内容は、田原氏がトヨタ自動車会長の張富士夫氏にインタビューし、さらに張会長自らが田原氏を工場に案内するというものであった。

 テレビ朝日、サンデー・プロジェクトのウェブサイトからその概要を以下に一部引用する。

http://www.tv-asahi.co.jp/sunpro/contents/toppage/cur/

トヨタのデータは驚異的なものがある。

<中略>

 なぜここまで強いのか、トヨタ躍進のカギを握るのが張富士夫会長である。

<中略>

 今回、製造業の命といわれる「ものづくり最先端の現場」にカメラが入り、張会長自ら案内してもらった。トヨタ生産方式、さらに人づくりのDNAなど常勝のトヨタの秘密とは何か?その極意に田原総一朗が斬り込んだ!


 普段は「過激で厳しい物言い」で売っているはずの田原氏だが、このコーナーではその片鱗も見られない。

 番組サイトでは「斬り込んだ」と威勢のいい言葉で紹介されているにも関わらず、実際にはひたすらトヨタの今の「成功」の「秘密」なるものを紹介し、賞賛するに終始している。

 まるでトヨタの会社見学に行って、会議室で企業紹介のビデオを見せられているかのような錯覚を覚えた。

 放送法における「一般放送事業者」であるテレビ朝日には、広告は広告と分かる体裁で放映することが、放送法第51条の2で義務づけられている。


放送法 第51条の2(広告放送の識別のための措置)
 一般放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、その放送を受信する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるようにしなければならない。

 サンプロの番組が「広告」でなく「ジャーナリズム」であるというのなら、トヨタが批判されている点について、するどく「斬り込む」べきであろう。少なくとも批判に対するトヨタの見解を聞くことがなくては、貴重な公共の電波を占有しているテレビ局が報道系番組における役割を果たすことにはならない。

 中小零細企業・新進企業のがんばりを取り上げるのであればともかく、世界に冠たる大企業トヨタの宣伝を、なにも報道系の番組が行う必然性はどこにもない。トヨタの宣伝はトヨタ自身が広告として行えばよい。



 ところで前述した「トヨタが批判されている点」は「トヨタの正体−トヨタの前に赤信号はないのか−」(著者:横田一等)に詳しい。本書では「トヨタの正体」を数多くの具体的な事例について詳細に問題提起している。

 その分野は、マスコミが書けないトヨタ車の評判、ハイブリッド車で環境への取り組みに積極的な姿勢をみせながらも排ガス規制には反対している実態、マスメディアに多大な影響を及ぼし批判を免れている現状、政治への接近してきた近年の動きから、トヨタ本体および下請けで働く人たちの置かれている過酷な状況まで多岐にわたる。

 本書によって浮かび上がるトヨタの姿は、単にトヨタという巨大企業の(大手メディアに報道されることのない)一側面というだけではないと感じた。

 現在の「好景気」なるものを支えている救いようのない「格差」の問題と同じ構図を長らく続けてきたのが「カンバン方式」に代表されるトヨタのやり方であることが分かる。

 また、その上で生産されつづけてきた商品そのものの質、企業としての社会的責任(今風にいえばCSR)なども、トヨタ自身がマスメディア、政治に大きな影響力を持つことによって、ほとんどチェックされることも知られることもないままでいられる、という点についても現代の日本社会を象徴している。

 民主主義、資本主義をより健全に保つためには、健全なチェックアンドバランス(牽制と均衡)は必須である。「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する。」というイギリスの歴史学者アクトンの言葉は、政治だけに当てはまる訳ではないだろう。

 国内シェア約4割を占めるトヨタの連結決算の売上高21兆円(2006年3月期)は、日本の平成17年度一般会計歳入決算総額89兆円の約4分の1にも上る。

 そのような巨大組織であればこそ、あえて批判に我が身をさらす努力をしなければ、「腐敗」からは逃れられず、「日本を代表する」巨大製造業としての責任を果たすことは出来ないし、巨大マスメディアもその役割を果たさないのであれば、公共の電波を使う権利は返上してもらいたいものである。