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23区廃プラ焼却
「実証確認」のまやかし


鷹取 敦

掲載日:2006年12月21日


 東京都23区内のごみの処理は、以前は東京都清掃局が行っていたが、2000年4月1日より清掃事業が23区に移管され、ごみの収集を各区が、中間処理(可燃ごみ、不燃・粗大ごみの中間処理、及びし尿の下水道投入)を「東京二十三区清掃一部事務組合」が、最終処分には当面は東京都が設置する新海面処分場を使用することとなった。

 中間処理のために設けられた「東京二十三区清掃一部事務組合」(以下「一組」と表記、イチクミと読む)とは、地方自治法第284条に基づき23区によって組織される特別地方公共団体である。平たく言えば23区が一緒にごみの中間処理だけを行うために作られた特別な自治体である。

 自治体の一種である一組には議会(組合議会)が設置されている。しかし23区民の誰も組合議会の選挙を経験した覚えは無いはずだ。なぜなら一組の規約の第7条に「組合議会の議員は、関係特別区の議会の議長の職にある者をもって充てる。」とあるからである。つまり各区の区議長が自動的に組合議会の議員となる。一組の管理者、すなわち一組の責任者はこの議員から互選される。現在の管理者は大田区長である。

 一組には議会が設置されているものの、その組合議員は区民に直接選挙されてないため、区民の意見を反映するのは極めて難しい。組合議員となる区議長(区議)を選ぶ選挙において、有権者は一組の議員としての一票を投じる訳ではないからだ。

 また、各区の議長はごみ処理の問題に詳しいわけでも、そのために多くの時間を割けるわけでもないため、技術的・専門的な分野に詳しい行政およびメーカー等の提案を十分に検証することは困難であり、自ずと一組の行政の決めたことを追認するだけの機関となりがちである。

 形式的には各区の区長および議長が、一組の運営に大きな責任があるはずだ。本来、行政組織は選挙で選ばれる首長が運営し、同じく選挙によって選ばれる議員を通じて監視することが重要であるが、一組の場合には、区民の目も手も声も届きにくい状態で運営されているのが実態である。

 このような組織によってごみ処理が行われている23区では、これまで燃やさないごみとして収集していた廃プラスチック等を、可燃ごみに変更して焼却・発電する、いわゆる「サーマルリサイクル」(リサイクルの名に値しない)を2008年から開始する計画がある。この計画に先立って一部の区において「モデル収集可燃ごみの焼却実証確認」(以下「実証確認」と表記)なるものが行われている。

 この計画では一組と東京ガスが出資して新会社を設立することになっている。「民営化」と言えば聞こえがいいようであるが、民営化会社となればさらに区民、有権者、納税者の目も手も声も届かなくなる。そもそも市場原理の働かない仕組みにおいて民営化するのであれば、民営化のメリットは一切期待できず、単にデメリットのみが生ずる可能性が極めて高いだろう。最近、数多く摘発される「焼却炉談合問題」にしても行政だからこそ露見するのであって、民営化されてしまっては闇の中である。

 廃プラ焼却・発電には、環境汚染、資源、財政、環境教育等、多くの点において重大な問題がある。また、ごみの処理は私たちの生活に極めて密接したものであって、その方法は不透明な意志決定の中で勝手に決められるのではなく、本来、私たち自身が議論して決めなければならない。しかし、これらについては別の機会に言及するとして、今回は上記の「実証確認」について検証したい。

 この「実証確認」は、4区(品川区、大田区、足立区、杉並区)のうち一部の地域において行われている。その概要は一組のウェブサイトに掲載されている。http://tokyo23.seisou.or.jp/thermal/6thermal.html#kakunin

 例えば品川区では7月1日から開始され、7月3日から品川清掃工場(処理能力:600t/日)に搬入されている。

 品川清掃工場のごみ搬入量は全体で約1.6万t/月であり、そのうち「モデル可燃ごみ」(プラスチックを可燃ごみとして収集)は、230t/月前後に過ぎない。モデル可燃ごみの占める割合はたったの1.5%程度である。
 このモデル可燃ごみに占める「廃プラ等」の割合は約15%である。そもそもプラスチックが不燃ごみだったころから廃プラの占める割合は5%程度混入していたから、モデル収集によって廃プラの割合が10ポイント増加したということになる。
 全体のごみに占める廃プラの増加割合は1.5%×10%=0.15%であり、微々たるものである。日々の変動、変化よりも少ないのではないだろうか。

 わずか0.15%のプラスチックの増加をもって「実証確認」など出来るわけもない。また、全体のうちたった1.5%のモデル可燃ごみを集中的に燃やしたとしても24時間のうちたった20分程度であり、排ガス、灰中の濃度との関係など分かるわけはないし、炉への負担など変わろうはずもない。そもそもそのように集中的に燃やしたかどうかも報告には示されていない。つまり、実質的に普段と変わらない焼却でデータを取り「実証確認」と称しているのである。

 ちなみにある自治体のプラスチック混焼を前提に作られた焼却炉では、プラスチックの混入率が20%を超えた結果、クリンカ等の問題が深刻となり、結局、分別をせざるを得なかったという話である。そもそもプラスチックを燃やすことを想定していない23区の焼却炉で、上記で指摘したようにふだんとほとんど変わらないごみを燃やして「実証」できるわけがない。

 また、データの取り方にも問題がある。7月から継続して「モデル可燃ごみ」なるものを集めているにも関わらず、排ガスを測定したのは実施前、実施後の各1回のみである。少なくとも公表されたデータについては自動測定以外の測定は実施前後各1回(1炉につき1回ずつ)しか行われていない。

 ごみの組成は日々変化するものであるから、それに対応したデータを取って検証しなければ意味がない。また、最近は、清掃工場運営の外部委託化が進められ、外部委託した時間について不具合の発生の多発が報告されている。ベテランの職員であれば容易に回避できる事態であっても、委託先から派遣される未熟な「技術者」では必ずしも対応できない。このような未熟な「技術者」による焼却条件の悪い状態についても確認しなければ検証たり得ない。

 科学的な実験・実証においてデータがたったの1つしかないということはあり得ない。学術の分野であれば審査以前に門前払いだろう。たとえ、学生の実験であってもこのようなデータを認めてくれる先生などいるわけもない。

 他にもこの「実証確認」なるものには問題が沢山ある。例えば「不検出」と表記されているデータが多いが、「不検出」と表記する場合には、どのレベルまで定量的に検出可能であるか(これを定量下限値と言う)を示さなければデータたり得ない。しかしこの報告には定量下限値が一切示されていないのである。

 問題点を挙げればきりがないので本稿では、ここで一旦止めておくが、このような極めて杜撰な、というより、そもそも何かを把握しようという意図を持たない計画の下に実施したとしか思えない調査をもって「実証確認」と称しているのである。

 これをもって「安全宣言」とし、プラスチック焼却が行われることになれば、将来、事故、不具合、環境汚染が発生することは想像に難くない。少なくとも、これらが起こらないという確認は一切されていないのである。

 そもそも、本稿で取り上げたのは廃プラ焼却・発電の問題点のほんの一側面に過ぎない。廃プラ焼却・発電の環境汚染、資源、財政、環境教育等、多くの点において看過することが出来ない問題については、別の機会に触れたい。