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土壌汚染の「説明人」は誰のため?

鷹取 敦

掲載日:2007年4月11日


 読売新聞(科学・2007年4月8日10時28分)によると、
『工場跡地などで問題化している土壌汚染について、環境省は、第三者の立場でその危険性などを住民や開発者に説明する「土壌環境リスクコミュニケーター」の認定・派遣制度を創設する。』
という。(記事本文は本稿末尾に引用)

 「土壌環境リスクコミュニケーター」は記事の表題では「説明人」とされているので、本稿でも「説明人」と表記したい。

 記事を注意深く読むと、この制度の目的は土壌汚染された土地の再利用の促進にあることが分かる。土壌汚染対策にかかる費用が膨大であるため、土地の再利用が進んでいないと書いてある。つまりこの制度では「説明人」に企業と住民の間を取り持ってもらい、住民に説得して土壌汚染対策をせずに土地の再利用を促進することを実質的に期待しているのであろう。

 例えば記事の以下の部分をみれば、対策の推進と土地再利用を併記しているものの、重点は土地再利用のための妥協点をみつけることにあることが分かる。
『企業側や住民側の要請で現地に出向き、汚染の度合いによる人への毒性や、汚染土壌の管理方法などを説明。双方の意見を聞きながら妥協点を探り、対策の推進、土地再利用を目指す。』

 筆者は土壌汚染対策法が施行されたばかりのころ本コラムで、
http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col38.html
『すなわち「土壌汚染対策法」の正体は、土壌汚染を解決するための法律ではなく、工場跡地に「汚染が無い」というお墨付きを与え、再開発を促進するための法律であると言えよう。』と指摘した。

 そもそも土壌汚染対策法の目的が汚染土地の再利用推進のためにあるのだから、今回の「説明人」制度の目的がこれと同じであっても不思議はない。土壌汚染対策法があるのにさらに「説明人」の制度が必要ということは、土壌汚染対策法が期待したようには機能していないのかもしれない。

 土壌汚染対策法は、現に汚染があっても「調べない」「汚染がない」「対策しなくてもよい」と結論づける法律であるのだから、住民の信頼を得られないのは当然であって、国が「第三者」と位置づけた「説明人」に説得させても説得力などあるわけもない。

 土壌汚染対策法の問題点は、都知事選の争点の1つとなった豊洲(東京ガス工場跡地・築地市場の移転先計画地)の土壌汚染でも明らかとなった。土壌汚染対策法では法施行以前に使用が廃止された土地を指定区域の対象としないことから、汚染が明らかであるにもかかわらず法による指定が行われないのだ。

 この点について国会でも指摘されたが、国は豊洲の汚染を把握していながらこのような規定を設けたことを認めたと報じられている。
http://www.janjan.jp/living/0704/0704103529/1.php

 そもそもこのように問題のある土壌汚染対策法を作った国が「説明人」を認定・派遣したところで、住民からみて「第三者」であるとは到底言えまい。事業者に成り代わって「安全宣言」を出すことが出来る人を認定していこうという意図が見え隠れしている。

 ところで「説明人」認定・派遣の実務は誰が行うのだろうか。環境省本体にその余裕があるとは到底考えられないので、外部に委託されるのであろう。このような業務が競争で民間に委託されることはまず考えにくい。おそらく社団法人 土壌環境センターのような環境省の外郭団体に随意契約で委託することを想定しているのではないだろうか。

 現在、国で検討されている公務員制度改革は、このような形式的には「非営利」とされている団体を対象から除外しようとしていると報じられている。渡辺喜美行政改革担当相が「天下りの実態として民間企業に行く割合は1割程度だ。独法などを除くと9割以上が規制対象ではなくなる」と指摘している。

 土壌汚染「説明人」なる制度は、公務員制度改革にも逆行している。

ヨミウリオンライン・科学面
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20070408i202.htm
土壌汚染に「説明人」…環境省が新制度

 工場跡地などで問題化している土壌汚染について、環境省は、第三者の立場でその危険性などを住民や開発者に説明する「土壌環境リスクコミュニケーター」の認定・派遣制度を創設する。

 指針を今年度に作成、最終的に1000人規模の人材を育成する。

 リスクコミュニケーターの中心と期待されるのは、公害分野の学識経験者や、長年、企業などで土壌調査・対策に従事した経験を持ち、退職年齢を迎える団塊の世代の人たち。

 企業側や住民側の要請で現地に出向き、汚染の度合いによる人への毒性や、汚染土壌の管理方法などを説明。双方の意見を聞きながら妥協点を探り、対策の推進、土地再利用を目指す。

 有害物質を使っていた工場跡地などの場合、土壌汚染対策法により、土地の所有者が汚染状況を調査して都道府県に報告することが義務づけられている。しかし、環境への悪影響を懸念する住民と企業が対立する例も珍しくない。

 汚染土壌を掘削除去するには、1立方メートルあたり数万円ともいわれる費用がかかる。これがネックになって売却のメドもなく、対策も講じられないまま放置されている汚染地は全国で数十万か所にのぼるとみられる。

(2007年4月8日10時28分 読売新聞)