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豊洲でさらなる汚染検出
本来議論すべきは市場移転の是非


鷹取 敦

掲載日:2008年5月20日


 筆者は本コラムにおいてこれまで下記の2つを含め、東京都が築地市場の移転予定地としている豊洲の土壌汚染の問題に関連して何度も言及、指摘してきた。

東京都豊洲新市場予定地の土壌汚染問題
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col141.htm

豊洲の土壌汚染の多岐に渡る問題
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col145.htm

 この問題に関連して東京都が設置した専門家会議(座長:平田健正和歌山大学システム工学部教授・学部長)において、新たな調査結果が昨日(2008年5月20日)公表された。

 「都は移転予定地を100平方メートルごとに区切り、計4122カ所で調査。土壌からベンゼンが最高で環境基準の4万3000倍、シアン化合物が860倍検出された。地下水ではベンゼンが561カ所(全面積の14%)で環境基準を上回った。汚染個所は全体の3分の1に達した。」(毎日新聞25月20日東京朝刊)と報道されているように、日本の甘い環境基準をもってしても、きわめて高い濃度があらためて確認されたのである。
http://mainichi.jp/life/ecology/select/news/
20080520ddm012040079000c.html


 詳しいデータは以下の東京都のサイト
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/senmonkakaigi1/
に公表されている。

 これまでに行われてきた「対策」は、地上から2mまでは基準を超過した土壌の入れ替え、それより深い土壌は基準の10倍を超過したもののみ入れ替えという内容だった。上記に示したデータをみると、処理が終了したはずにも関わらず極めて高い汚染が検出されている。

 専門家会議では従来の対策案では不足であるとようやく認識し「▽地下2メートルまでの全土壌の掘削▽ベンゼンの濃度が環境基準に適合することを目指した地下水浄化」(毎日新聞5月20日東京朝刊)を提案した。その結果、「対策費の総額は1000億円を超えるとみられ、国内では最大級の土壌汚染対策となる見通し」(同記事)という。

 以前、筆者がテレビ局の依頼で現地を視察した際に、土壌入れ替え前の敷地内にたまり水を確認した。その際、その水が土壌を通じて汚染されている可能性が極めて高いことを指摘したが、その後、その水は汚染を測定されることもなく、作業者に汚染の可能性を知らせることもなく東京湾に流されたと、現地を知る方から聞いた。

 今回公表されたデータでも環境基準を超える地下水汚染が561箇所から検出されたように、汚染された土壌が広範囲にわたって地下水を汚染し、地下水によって汚染がさらに広がっていることが推察される。

 調査は表層土壌および地下水だけだが、調査されなかった深さ方向にも汚染が浸透していると考えるのが自然であろう。専門家会議の提案する表層2mの土壌を全て入れで「安心」とは、残された土壌および地下水汚染のレベルが極めて高いであろうことを考えれば言えるはずもない。

 ところで1000億円を超すとみられている対策費は誰が負担するのであろうか。当初の対策は東京ガスが負担し、処理が終了した土地を東京都が購入すると言われていた。筆者が現地を視察した際には、すでに「処理が終了した」一部の土地の所有権が東京都に移っており、ここへの立ち入りに際しては東京都(管轄している築地市場の事務所)の許可を得ていた。

 この時に既に東京都に所有権が移っていた範囲からも、今回の調査で高濃度の汚染が検出されているから、今度は所有者である東京都の負担、すなわち都民の負担によって処理されるのではないだろうか。

 そもそも築地市場の移転は、同じ場所で運用しながら建て替えるよりも、新しい場所である豊洲に新たに建てた方が建設費が安い、というのが大きな理由の1つであったはずだ。

 しかし巨額の税を投入して「対策」してもまだ地下2mより下の浅いところに高濃度の汚染残る場所に市場を移転しようとは、当初のコスト回避の目的すら
達成できず、さらにリスクを抱えた土地に食品を扱う施設を建てようという悲劇的とも言える結末である。このようなリスクを抱えた土地では、この「都有地」の土地としての価値も低いと言わざるを得ない。

 もし本当に今後の対策を税金で行うのであれば、結果として東京ガスは汚染土地に見合わない高い価格で土地を売り抜けた、ということになる。東京ガスは汚染対策が費用がかかりすぎるから、この土地の都への売却を一度は拒否したと言われていた。それにも関わらず売却することになったのは、汚染対策にかけた費用が想定したより少なかったということなのではないだろうか。そうでなければ東京ガス自身が株主代表訴訟で訴えられかねないだろう。

 「専門家会議」の正式名称は「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」である。すなわち「汚染対策」についてしか議論されない会議である。

 本来設置すべきは、築地市場を移転すべきかどうかについて、環境面、財政面を含めて議論する場ではないだろうか。