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日韓環境アセスメント国際シンポ
〜韓国・釜山大学にて(2)〜


鷹取 敦

掲載日:2008年12月1日


■2008年11月28日(金)シンポジウム当日

 サンナム国際会館から会場であるSEONG HAK Hallに徒歩で約5分ほどである。あらかじめの案内、公式サイトの地図ではC21と表示されているが、現地にはC33と表示されていた。地図上の場所を確認すると間違いなく、ポスターも貼ってあるので、会場であると確信し、受付時間の9時より少し前に会場に入った。

C33号館(会場)

キャンパスからの眺望

 会場には武蔵工業大学の田中章准教授と通訳の李民兒氏が既に到着されていた。受付開始時間の9時を過ぎても9時半を過ぎてもなかなか参加者が集まらなかったが、聞いたところどうやらこれがこちらのペースのようである。開始予定時間を大幅に過ぎた9時45分からシンポジウムが始まった。

 なお、主な参加者は日韓以外にアメリカ(ウルフ教授)およびベトナムから一人ずつの参加があった。

 プログラムは以下のとおりである。(敬称略)

●開会の辞 9:30-9:50
Jong Ho Lee(韓国環境アセスメント学会 会長)写真
原科幸彦(日本環境アセスメント学会 副会長)


●発表
9:50-10:00
住宅地開発へのHEPの適用事例
田中章(武蔵工業大学環境情報学部)


10:30-11:10
清州(Chungju)SANNAM3の宅地開発事業を通じたひき蛙の生息地造成方案
Sang Don Lee 李商敦(梨花女子大学)


11:20-12:00
新JICAの環境社会配慮ガイドラインの検討
原科幸彦(東京工業大学)


13:30-14:20
道路事業の環境影響評価における大気環境汚染予測方法の課題と検証
鷹取敦(環境総合研究所)※筆者



通訳をする趙氏(Korea Environment Institute)

14:10-15:50
韓国の道路建設事業における大気質の環境影響評価の方法
Young Soo Lee(韓国環境政策評価研究院)


●パネルディスカッション 15:00-16:00
(写真左より)
金(韓国環境アセスメント学会 副会長)
ソン博士(韓国大学)
サゴン博士(KOICA)
座長:Suh Sung Yoon氏(韓国環境アセスメント学会顧問)
伊藤勝(江戸川大学)
村山武彦(早稲田大学)
臼井寛二(JICA)


●閉会の辞 16:00-16:10
金(韓国環境アセスメント学会 副会長)
鹿島茂(日本環境アセスメント学会 会長)写真

 発表はプログラムにあるように、原科教授の新JICAガイドラインに関する報告を挟んで、同じテーマを元に日韓交代で行われた。原科教授の報告では、ステークホルダーの参加、透明性の確保について強調され、そのための審査諮問機関の設置の重要性を述べられ、韓国のJICAに相当するKOICAへのアドバイスとされた。

 前半は生物への影響に関わる代替案の住宅開発事業への適用事例に関する発表であった。田中章教授の発表はHEP(Habitat Evaluation Procedure)の適用事例で、横浜における住宅開発事業においてHEPを適用して複数案の検討を行った事例を報告された。李商敦教授の発表は清州サンナム3の住宅開発事業において、ステークホルダーとしてNGOが本格的に参加して代替案を検討した初めてのケースとして、事業地内に取り残された蛙の生息地と周辺の自然を繋げるコリドーを作ることになった事例を報告された。李商敦教授の指摘で印象に残ったのは、意志決定に住民、NGOがきちんと関わることが出来たことの他に、いわゆる代償措置は開発事業の「正当化」に使われるおそれがあるという指摘だった。

 李商敦教授とは昼食時に隣の席となったこともあり、開発事業、アセスメントへの住民、NGOの関わりを中心にいろいろと議論をした。住民運動、NGOの運動の力強さが日本とは大きく異なり、環境アセスメントをはじめとする形式的な手続きだけを経るだけでは事業は進めさせない、本質的な議論を迫る迫力、つまり環境を守るための激しい反対運動の存在があることがうかがわれた。制度として設けられた手続きを、実効性あるものにする重要な要素であろう。

 後半は筆者が、日本の環境アセスメントにおいて長年漫然と使われている、大気汚染の予測モデルについて事例をふまえ報告し、その後、韓国環境政策評価研究院のYoung Soo Lee(李)氏より韓国のアセスメントにおける大気汚染予測の概要について報告された。李氏は筆者の発表を受けて、韓国で使用しているモデル(米国EPAのCALINE-3)もプルームモデルを含み、同じ問題を抱えていると指摘された。韓国では環境紛争の事例(調停の数)が年々増えており、特に騒音、振動、大気汚染の分野で増加しているそうである。李氏の発表の中で特に日本と違う可能性があると感じたのは、環境基準を超える結果となった場合には、必ず対策をしなければならない、という点であった。日本では環境基準を超えなければそれでよしとされ、超えても影響はわずかであるからよし、という結論がまかり通っているため、その点について筆者が確認のため質問したところ、やはり基準を超えている場合の対策(主に緩衝緑地、距離の確保)が義務づけられているそうである。東京都心や幹線道路沿道のように既に環境基準を超えている場合には、どうかと訪ねたところ、その場合でも特に影響が大きい場所については、対策が「義務づけ」られ、それ無しには事業が出来ないそうである。

 また、環境基準は国の他、自治体によってさらに厳しい値が定められており、アセスメントではそれへの適用が問われるそうである。さらに2010年には環境アセスメントの評価は環境基準から健康に対する評価に変更されるという。これは、環境基準さえ下回って入ればOKとならないようにするための変更だが、道路事業については残念ながら建設省の反対で今のところ対象になっていないそうである。

 なおモデルについては、道路事業以外、火力発電所などでは3次元モデルの利用拡大の動きがあるという。道路事業で事業官庁が頑なであるのは、日韓で似ている面もある。いずれも道路では本当のこと(地形、建物を考慮した大気汚染予測結果)が分かると事業が出来なくなる、という事情を抱えているからではないだろうか。

 今回は時間の制約でこれ以上の質疑は遠慮したが、発表終了後、さらに個人的に李さんと議論した。韓国の道路事業は新設道路で4km以上、拡幅事業で10km以上が対象になるそうだが、いわゆるアセス逃れ(たとえば3.9kmで事業を区切る)ような事例はないか質問した。韓国ではアセス法の他、PERS(Preliminary Environment Review System)があり、この時点で、このように短くした事業についてもチェックされるそうである。ただし、現在の政権ではアセス法とPERSを一本化して、より事業を進めやすくする方向で改訂を検討しているという。また、韓国のアセスでは代替案の評価が行われ、その結果、事業がストップすることもあり、また大きな影響を受ける住居については事業者が買い取ることもあるという。

 その後、パネルディスカッションで、パネリストの専門分野を中心に意見や質問が行われ、JICAガイドラインをKOICAで参考にするにあたっての質問、HEPによる検討の長所と課題、検討チームの構成について、大気汚染モデルの課題の指摘について参考になった旨、2010年の韓国の健康エコ評価が日本にも参考になる旨等が述べられ、議論された。

 シンポジウム終了後に、釜山大学駅の隣の駅である温泉場駅から徒歩15分くらいのところにあるフグ料理屋で懇親会が行われた。日本のフグ料理と違い、お刺身ではなく茹でてたものである。ここから最終日まで魚料理が続き、日本人にとって韓国料理の代表となっている「焼き肉」やそれに類するものは1度もなかった。懇親会でも多いに議論、交流し、親交を暖めた。発表者とパネリストには記念品(釜山大学の地球儀型の置物)が、他の参加者全員にキーホルダーが配られた。
地下鉄の駅

釜山大学周辺

釜山市内

つづく