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宮城県・福島県北部
被災地調査に参加して

鷹取敦

環境総合研究所(東京都品川区)
掲載月日:2011年9月22日
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 2011年9月17日〜19日、宮城県および福島県北部の被災地現地調査・放射線調査に参加した。

 筆者には2度の福島県被災地現地調査・放射線調査に次いで3度目の被災地視察である。視察した地域等の概要は下記の速報のとおりである。
■宮城県・福島県北部・被災地・放射線現地調査(速報)
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col1050..html
 筆者の視察における主な役割は写真による記録と、簡易線量計を用いた放射線量率の記録である。

 記録写真、線量率のいずれも、どの場所で記録したかが重要なるので、GPSを用いて緯度、経度を5秒間隔で自動記録しながら移動した。GPSは衛星からの電波の受信状況や機器の特性によって精度が異なることから複数の機器を用いて記録した。

 ひとつは腕時計のように装着できる手持ちのGPSロガー、もう1つはデジタルカメラCASIO EX-H20GのGPS機能である。この機種は写真に位置情報を付加するだけでなくGPSロガーとしても使うことができる。

 簡易線量計としては2度目の福島調査の際に使用した3機種のうちDoseRAE2を用いた。

 福島調査の時には下に示す日立アロカメディカル社のシンチレーション式サーベイメータTCS-171B(キャリブレーション済み)、米RAE Systems社のシンチレーション式個人線量計DoseRAE2、露RADEX社のガイガーカウンター式の個人線量計RD1503を用いた。


4台の放射線計測機
(左から日本製TCS-171B、ロシア製RD1503、米国製DoseRAE2、中国製DP802i)

 この際、DoseRAE2、RD1503ともにTCS-171Bによる測定値で測定精度を検証済みである。DoseRAE2は0.1μSv/hを下回る地域においても計測可能であることを確認したので今回の宮城県・福島県北部調査ではDoseRAE2を用いることとした。
■福島放射線現地調査報告2011年6月18日〜20日
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp70..html
 ちなみにDoseRAE2は独立行政法人 国民生活センターの調査「比較的安価な放射線測定器の性能」では測定精度に難があるかのように結論づけられているが、この国民生活センターの調査方法自体に課題があることが分かっており、筆者は下記で具体的に指摘した。簡易線量計であっても問題のないものを入手し特性に合わせて正しく使い正しく数値を理解すれば有効に活用することが出来る。
■国民生活センターによる簡易線量計テストの諸課題
http://eritokyo.jp/independent/takatori-fnp0005.htm


 さて、視察についてであるが、筆者は以前に仙台市全域、宮城県全域を対象とした環境調査(自動車排ガス大気汚染、道路交通騒音実測調査・シミュレーション調査等)を仙台市、宮城県の委託業務として行ったこともあり、報道や人づてにしか知ることができなかった被災状況がずっと気にかかっていた。

 1日目(9月17日)は仙台市を出発、松島町を経由して石巻市、女川原発のある女川町に向かった。

 松島町は2010年5月に知人を訪ねた時に来たばかりだった。ここは津波の被害がきわめて小さかったと聞いていたが、驚くほど被害の跡がみられず、観光の中心でもある県立自然公園松島のあたりでは観光客も見受けられた。


松島町は島々が自然の防波堤・防潮堤となり被害を免れた
出典: Google Map

 やはり松島湾を囲む島々や半島が緩衝帯となって津波の衝撃を緩和したのであろうと思われる。


ほとんど津波の被害を受けず活気があった松島町 
動画から切り出し:撮影 青山貞一

●津波被害の小さかった松島町

 筆者らは松島町にある宿で1泊した。ここは立派な旅館だが、現在はボランティア、復興関係者のみ受け付けており、安価に宿泊を提供できるサービスの体制を整えていた。復興作業やボランティアを行っている人たちでほぼ満室だった。


松島で一泊したホテル壮観

 津波の被害を受けた沿岸部では、復興関係者が宿泊できる施設が全く存在しない地域が多いが、松島町は津波の被害が少なかったことで、周辺地域の復興・復旧の拠点の1つになっているものと思われる。

 松島町を過ぎて東松島市の沿岸部に入ると、一転して甚大な津波の被害の跡が、膨大ながれきは撤去されたとはいえ、手つかずのままとなっている。地盤沈下の影響で河川の水位が通常時でも異常に高いのが目につき、海水が入り込んだままとなっている場所も多く、堤防も大型の土嚢が積み上げられている場所も多く、今後の水害が心配だったが、視察直後の9月21日の台風15号は被災地を直撃し仮設住宅までもが浸水し被害を受けたという報道があった。


石巻港に面した被災地


地盤沈下のため河川の水位が異常に高い(石巻港近くの定川)

 石巻港等の大きな港では、すでに修復されたと思われる施設と、大きな被害を受けたままになっている施設が混在している。2日目に訪れた仙台塩釜港では巨大な船が埠頭に乗り上げたままになっていた。


石巻港の被害を受けたままとなっている施設

 また沿岸部ではそこここに集めたがれきを積み上げた集積所があり、遠くからでも目についた。がれきは分別されないまま積み上げられている場所と、木材、コンクリート系のもの等のようにある程度分別されている場所があった。地元の方の話によると、場所によっては搬出されがれきの山が少しずつ小さくなりつつある、ということである。


がれきの集積所


●女川原子力発電所付近の放射線

 福島第一の直後から女川原発のモニタリングポストにおける放射線量率がやや高めだったのが気になっていた。

 女川原発のモニタリングポストにおける線量率は3月12日深夜ごろに急上昇し、一時は10,000nGy/h=10μGy/h≒10μSv/hを超えている。一説によるとここも福島第一原発の影響による上昇ということだ。


2011年3月12日の女川原発モニタリングポストデータ(東北電力ウェブサイトより)

 確かに福島第一原発では一号機の爆発が3月12日の夕方にあった。ちなみに浪江、飯舘、福島、郡山等の周辺地域や関東地方における福島第一の影響による上昇は3月15日、3月21日頃に顕著である。

 なお現在、東北電力による女川原発の6つのモニタリングポストは最大で0.12μGy/h(2011年9月22日8時50分現在)である。μSv/hにすると2割ほど数値が増えるので約0.14μSv/h程度であろうか。

 モニタリングポストの数値だけでは周辺地域における分布が分からないことから、今回の調査における女川原発周辺の調査は貴重なデータである。以下に女川町に入ってからの測定値を列挙する。(ちなみに女川原発の敷地の南側は石巻市にかかっている。)すべて牡鹿半島内における計測値である。

表 女川原子力発電所付近および前後の放射線量率
県道41号 女川町 小乗浜  0.08μSv/h
横浦  0.10μSv/h
0.11μSv/h
大石原浜  0.09μSv/h
飯子浜  0.10μSv/h
飯子浜  女川原発付近  0.08μSv/h
0.09μSv/h
0.13μSv/h
塚浜 0.16μSv/h
0.13μSv/h
石巻市  前網浜  0.14μSv/h
鮫浦  0.10μSv/h
0.10μSv/h
0.11μSv/h
谷川浜  0.13μSv/h
県道2号 小積浜  0.11μSv/h
桃浦  0.10μSv/h
渡波  0.08μSv/h
出典:環境総合研究所(東京都品川区)


線量率測定地点(赤が「女川原発付近」)

 原発付近の値はおおむね東北電力のモニタリングポストの値と一致している。原発に近づくと数値が上がり、離れると下がる傾向がみてとれる。しかし福島第一原発1号機爆発の直後に上昇したこともあり、女川原発に起因するものであるか福島第一原発事故に起因するものであるかは断定はできない。


女川原発正門前の立て看板 撮影:青山貞一

 女川原発のすぐ近くに「東北電力 女川原子力発電所PRセンター」がある。休館日ではないので女川原発に関わる情報を得ようと立ち寄ったところ「女川原子力発電PRセンターは震災の影響により閉鎖しております。敷地内に立ち入りはできません。」という張り紙がしてあり閉鎖されていた。

 福島第一原発の事故の終息の見通しがつかない今こそ、「安全神話」のためでない正確な情報を提供する場として東北電力は施設を活用すべきなのではないだろうか。

 ちなみに女川原子力発電所には原発は3基ある。1号機は昭和59年営業運転開始で約27年、2号機は平成7年営業運転開始で約16年、3号機は平成14年営業運転開始で約9年が経過している。

 女川町は多くの合併を繰り返して市域を広げた現在の石巻市に囲まれるような場所に位置する。原発立地自治体として交付金、固定資産税等の税収が豊かなので、(市町村合併の是非は別として)近隣市町村と合併しないというよくある構図である。


●仙台塩釜港以南の被害

 今回の調査地で、地形的に特徴があるのが仙台塩釜港から南の仙台市若林区、名取市、岩沼市亘理町等にかけての海岸の平野部である。この地域は海岸線から数キロメートル、場所によっては十キロ近く平野が続いており、津波の甚大な被害が海岸線から離れた地域まで広がっていた。


見渡す限り津波で家屋が流されている(仙台市若林区)

 この地域には海岸線から2〜4キロメートルの位置に海岸に平行して仙台東部有料道路、常磐自動車道がある。これらの道路は盛土構造となっており、津波の大きな被害はここで止まっている。

 筆者の知人の両親はこの道路の山側にあり、津波の被害を逃れたそうである。仙台東部有料道路の一部には震災後、階段が新しく設置された箇所があった。津波から逃れる際に急な斜面のままでは上れなかったであろう。


東部有料道路に設置された階段

 とはいっても、津波の被害を受けた地域はきわめて広大である。仙台東部有料道路は仙台空港を避けて山側に蛇行しているため、報じられているように仙台空港も大きな被害を受けた。仙台空港は現在は機能を復旧して多くの利用者があり、空港の駐車場は満車で入れないほどであった。近隣の建物、施設が津波で流され、他に駐車する場所がないために満車であった可能性もあるかもしれない。


仙台空港を西に迂回する仙台東部有料道路


●新地町から相馬市の被害

 福島県新地町では、被災者ご夫婦にインタビューし、新地町から相馬市にかけて津波当時の状況等を詳しくうかがいながら被災地を案内していただいた。
■福島県新地町被災者インタビュー
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col1058..html
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col1059..html
 被災した方ご本人から詳しいお話をうかがったことで、現地をみただけでは分からない、津波の当時の状況、地域の地形やコミュニティーと避難との関係の重要性、課題等がよく分かった。松島町や松川浦等の地形によって津波の影響が緩和されることだけでなく(松川浦はそれでも松島町と比較して多くの被害があったが)、過去の被害の経験、教訓を生かすことが、多くの人の命を救ったり、漁船等を守ることに繋がるかが分かった。住宅や学校等の立地が災害対策としてもきわめて重要であることも分かった。


松川浦・水位が高い


●福島第一原発事故の影響

 今回は視察全行程に渡り放射線量率を測定した。特に宮城県南部から福島県北部(相馬市、南相馬市)の調査を行った日はGPSデータを用い約1km毎にデータを記録した。下記はその結果の概要である。
■宮城県・福島県北部放射線量測定調査〜全265地点(速報)〜
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col1051..html
 女川原子力発電所周辺でやや高いことに言及したが、速報に示したグラフをみても分かるように、福島県側のレベルの方がずっと高い。福島第一原発に近づくにつれ急激に上昇しているのが分かる。


放射線調査速報グラフ(再掲)

 南相馬市は海岸側を測定したので、南相馬市内でも比較的低い地域であり、関東地方において比較的線量率の高い、いわゆる「東葛地域」(松戸市、柏市等)と同レベルである。同じ南相馬市内でも飯舘村に隣接する山側ではこれよりはるかに高い。

 直近においてより深刻なのが、漁業や農業への影響である。新地町では漁業者の機転によって多くの漁船が守られたが、その漁船でとった魚を売って生計を立てることが難しい状況であり、これも原発事故のより大きな被害の1つである。

 震災から6ヶ月以上経った現在、積み上がったがれきはかなり撤去され、物理的な見通しはよくなり、遠くから太平洋が望める状況にある。しかし6ヶ月経っても、現地を見る限り復興・復旧の見通しはほとんど経っていない地域が多いように感じた。今回新地町等を案内してくださった方が、仮設店舗ではあるが、近日ようやく営業の予定、というのがわずかな希望であるように感じた。