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所沢市東部クリーンセンター周辺の

松葉ダイオキシン調査

鷹取敦

掲載月日:2014年11月22日
 独立系メディア E−wave
無断転載禁


 東京23区では、2008年からそれまで不燃ゴミだった廃プラスチック類を、可燃ゴミとし、23区内の焼却炉を操業している東京二十三区清掃一部事務組合は、廃プラスチックの本格的な焼却処理を始めた。

 区民の強い反発と問題提起により、多くの区では、容器包装プラについては焼却せずにリサイクルすることになったが、それ以外のプラスチックについては本格的な焼却処理が始められている。これは単に廃プラ焼却のはじまりではなく、分別が不要となったと誤解した区民のゴミ問題への意識の低下により、焼却ゴミへの不燃物の混入率も上昇している(東京二十三区清掃一部事務組合データによる)

 廃プラ焼却への環境面等への影響についての区民の不安に対し、東京二十三区清掃一部事務組合は、「実証確認試験」なるものを実施した。この問題については、以前に下記等で報告したとおりであり、科学的な検証たりえない。

◆23区廃プラ焼却「実証確認」のまやかし(鷹取敦)
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col131.htm

◆廃プラ焼却実証確認試験問題学習会(池田こみち・鷹取敦)
http://eritokyo.jp/independent/ikeda-takatori-col1010.html

 埼玉県所沢市でも廃プラ焼却が行われることになり、東京二十三区と似たような実証試験もどきが行われた。

◆所沢市の廃プラ焼却への転換:その問題点(池田こみち)
http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col0600.htm

 他にも下記に東京23区や所沢市の廃プラ焼却問題、「確認実証」試験の問題についての報告を下記に掲載している。

◆E-wave Tokyo テーマ:ゴミ
http://eritokyo.jp/independent/today-column-waste.htm

 その後、所沢市は2010年10月に廃プラスチックの焼却処理を本格的にはじめたため、ごみ問題への関心の高い所沢市民と市議が協力して、廃プラ焼却前と後の環境の変化を把握するために、松葉を用いたダイオキシン類・金属類の調査を環境照合研究所に委託して実施した。

◆E-wave Tokyo テーマ:松葉調査
http://eritokyo.jp/independent/today-column-pine.htm

 松葉調査を行ったのは、廃プラ焼却前の2010年度と、廃プラ焼却開始後の2012、2013、2014年度である。また、所沢市が調査している焼却ゴミ中の廃プラ混入率と、連続採取し1ヶ月毎に分析している排ガス中のダイオキシン類濃度の関係についても考察した。

 2014年11月22日、所沢市生涯学習推進センターにて、この継続調査についての報告を行った。

 松葉調査は、所沢市東部クリーンセンター周辺地域と、焼却炉の影響が少ない地域(対照地域)の2地域について実施した。ちなみに、東部クリーンセンターは、西部クリーンセンターと比較して廃プラ混入率、不燃物混入率が高い。


所沢市の焼却ごみの組成

 松葉調査の結果をみると、東部クリーンセンター周辺は、対照地域と比較して、常に大幅に高い水準にある。これは廃プラ焼却開始前からの一貫した傾向であり、焼却の影響が示唆される。ダイオキシンの同族体パターンは、廃プラ焼却開始前から焼却の影響が見て取れるが、廃プラ焼却開始後にはこの傾向が強まっている。


松葉中ダイオキシン類濃度経年変化

 全国の大気中ダイオキシン類調査結果(自治体実施、環境省まとめ)から、都道府県別に平均したものと比較すると、埼玉県は調査地点の多い大都市圏の中ではトップレベルであり、東部クリーンセンター周辺だけでなく、対照地域の濃度も、この埼玉県平均よりもさらに高い結果となっている。


大気中ダイオキシン類濃度・都道府県平均等
黄色は埼玉県大気中濃度、オレンジ色は本調査の松葉調査からの推計値


 ちなみに他地域の松葉調査で、焼却の影響が少ない地域は、自治体が実施している大気中ダイオキシン類濃度と同程度のレベルであり、松葉調査だからといって特に高めに出るということではない。

 燃やすゴミに含まれる廃プラ混入率(2ヶ月毎、後に毎月)と、排ガス中ダイオキシン類の連続採取調査(毎月)を比較すると(いずれも所沢市調査)、廃プラ焼却開始後にはあきらかに排ガス中ダイオキシン類濃度が大幅に上昇していることがわかり、松葉調査の結果が裏付けられる。


廃プラ混入率と排ガス中ダイオキシン類濃度

 なお2013年には、東部クリーンセンターの2号炉において、排ガス中ダイオキシン類濃度が所沢市の自主基準値(0.01ng-TEQ/m3N)を超過した問題が発生し、規制値(0.1ng-TEQ/m3N)より低いものの問題となっている。

 金属類については、日本では廃棄物焼却炉における規制値はなく、測定もされていないが、自主的に水銀を測定している東京二十三区では、目標値を超過してたびたび操業停止となっている。また、東京二十三区清掃一部事務組合の調査によるとごみの成分分析により、廃プラからに各種金属類が含まれていることが明らかになっている。

 今回の松葉調査では、廃プラ焼却前の対照地域と比較して、廃プラ焼却前から東部クリーンセンター周辺ではヴァナジウムの濃度が高い(対照地域では上昇していない)。また廃プラ焼却前には検出されなかったクロムが、廃プラ焼却後は東部クリーンセンター周辺のみ検出されるようになった。このことからヴァナジウムは焼却処理の影響が、クロムは廃プラ焼却の影響が示唆される。


松葉中金属類濃度の経年変化

 報告会では1時間の調査報告の後、活発な議論が行われた。2011年3月11日の福島第一原発事故後は、放射性物質による汚染問題にばかり注目があつまり、ごみ処理に関わる市民の関心が低くなっているそうである。

 今回の調査であきらかになった環境リスクの側面にとどまらず、私たちの生活から排出されるごみの問題、税金の使途の問題、政策決定への住民参加、民主主義のあり方に関わる問題として、関心を広げていきたい問題である。