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個人で放射線測定器(線量計)
を購入して使う

鷹取 敦

20 August 2011 無断禁転載
独立系メディア E-wave Tokyo


 福島第一原発事故発生以降、個人で線量計(放射能測定器)を購入して、身の回りの放射線量率を測定し、自己防衛に努めようという人が増えている。

 個人で購入できる価格帯の線量計には様々なタイプがあり、なかには精度が低いものなど質に問題のあるものがある一方で、測定方法等により特性が異なり、同じ場所を測っても用いる機種によって異なる数値が出ることが、混乱を招いている面もある。


■問題のある製品の事例

 例えば、福島の放射線量率が比較的高い場所に、複数の個人線量計(米国メーカーDoseRAE2、ロシアメーカーRADEX RD1503、中国メーカーDP802i)および、サーベイメータ(日立アロカ TCS-171B)を持ち込んで、線量率を測定した際には、DP802iだけが、かけはなれて低い数値を表示することが多かったため、調査でこの機種を使用するのは中止した。

 この機種(DP802i)は筆者が個人で購入した4台の個人線量計のうち1台であった。販売点に今回の問題を伝えたところ、代替品(Version.4 日本向け等と表示されたもの)と交換された。確認のためこの代替品(DP802i)とDoseRAE2を複数の調査で線量率が0.4μSv/h程度と分かっている柏市内の公園に持ち込んで測定した。その結果、DoseRAE2は正しい値を示す一方で、DP802iは0.08μSv/h程度の数値を示すことが多く、代替品にも問題があることが判明した。最終的にDP802iは販売店に返品し、返金を受けた。(この販売店を含め、多くの販売店が現在でもインターネットで同製品を販売している。)

 DP802iは福島県内でも他県でも個人で購入して使用している人が多いと見え、インターネットでもこれを用いた個人の測定結果の報告をよく見かける。テレビでも福島県内で使用されている方の様子が放映されていた。これらを使用している人達が正しく線量率を測定できているか心配である。


■測定原理による違い(1)

 製品に問題がなくても測定方法による違い(特性)があることが知られている。放射線量率を測る方法には多くの方法があるが、個人線量計等で採用されている主要な方法はガイガー・ミューラー計数管(GM管と略)を用いる方法と、シンチレータを用いる方法がある。線量計のことを通称「ガイガーカウンター」と呼ぶのは前者の名称からくるものである。

 GM管は本来、β線のカウントが得意であり、γ線はカウントできる割合が低い。β線が入らない状態でγ線でキャリブレーション(校正)することで、γ線をカウントすることでγ線のレベルを補正して把握するようになっている。

 なおGM管はβ線の感度が高いため、除染しなければならな場所等、相対的に高い場所を探すことを目的としてあえてβ線を含めて測定する方法もあり、そのような使い方がしやすい機種もある。ただし、この場合にはμSv/h単位の数値は実際よる桁違いに大きな数値となる事に注意する必要がある。この場合にはCPM(1分間あたりのカウント数)で比較するのが正しい。この場合も機種が異なればCPMは異なるので同一機種でひかくする必要がある。

 またGM管は原理的に放射線のエネルギーを測定できないため、カウントした放射線の数から、放射線量率(μSv/h)に変換するためには、核種を仮定する必要がある。一般的にはセシウム137等を仮定して変換されており、この場合には現在の放射線量率を把握する目的としては大きな問題はない。

 シンチレーター式のものは、エネルギーを捕捉して、「エネルギー補償」をしているタイプのものであれば、μSv/h単位の放射線量率を正しく測定できるという特徴がある。


■測定原理による違い(2)

 上記の原理的な違いの他に、一般的にGM管を用いたものは、低い線量率の場所では高めに出ることが知られている。GM管を用いた機種は0.1μSv/h未満が高めに表示される機種が多い。

 たとえば下記のブログでは、放射線を出来るだけ遮蔽した状態で、SOEKS-01M(ロシア製、GM管)とDoseRAE2(アメリカ製、シンチレータ)を比較しているがGM管の機種では放射線を遮蔽しても平均で0.13μSv/h程度の結果となっている。したがって少なくともこの機種では0.13μSv/hより低いレベルは測れないということになる。
「再現した極低線量環境下での測定実験 」
http://sakai4.blogspot.com/p/soeks-01mdoserae2_25.html?spref=tw
 ちなみに、比較的高い値で知られる週刊現代の全国調査では、写真を見る限りこの機種を用いているものと思われる。筆者がDoseRAE2で測定して0.07μSv/h程度だった五反田駅前で、0.1μSv/hを大きく超える値が記事で示されていた。


 個人で線量計を購入する場合には、自分の使用目的に合った機種を選択する必要がある。上記の点の他に小型線量計の場合にはセンサーが小さく、正しい測定値を得るために時間がかかる場合が多いのでその点も注意する必要がある。また、正しい数値が出るように校正(キャリブレーション)されていることも重要である。使用する際には線量計が「汚染」(コンタミネーション)されないよう、ジップロック等に入れて使う等の注意も必要である。販売店のサポート等の重要である。特に輸入品の場合には平行して扱っている販売店が多く、サポート体制も異なる。

 「定評ある」機種の中から、自分の目的に合った機種を選択し、目的に合った使い方をすれば、「プロ用」の高価な機種でなくても、十分に目的を達することができる。


■東京都による検証

 東京都は新宿区百人町の東京都健康安全研究センターの屋上にモニタリグポストを設置し、放射線量率の測定結果を公表してきた。地上で個人等が測った結果とモニタリングポストの値が違うと指摘されて以来、地上での測定も行っている。

 それでも個人測定の結果と異なるため、東京都は先日、屋上、地上等で、複数の機種で測定した結果を公表した。
(東京都健康安全研究センター)「様々な種類の放射線測定器で、健康安全研究センターの敷地内を測定してみました。」
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/radiation_measurement.html
 以下はその概要である。ガイガーカウンターについては機種は明記されていな
い。

モニタリングポスト 0.0576μGy/h  (上記サイトにはμSv/hとあるが、普段の公表単位はμGy/h)
モニタリングポスト横 0.05μGy/h TCS-166(シンチレータ、単位:μGy/h)
0.07μSv/h  TCS-172B(シンチレータ)
0.06μSv/h  DoseRAE2(シンチレータ)
0.11μSv/h 小型ガイガーカウンタA
0.12μSv/h 小型ガイガーカウンタB
 地上正門前 0.06μGy/h TCS-166(シンチレータ、単位:μGy/h)
0.10μSv/h TCS-172B(シンチレータ)
0.09μSv/h DoseRAE2(シンチレータ)
0.11μSv/h 小型ガイガーカウンタA
0.13μSv/h  小型ガイガーカウンタB 

同一機種による比較(TCS-172Bを抜粋、単位:μSv/h)
   床・地面から1m 床・地面から5cm 
モニタリングポスト横 0.07  0.10
地上(敷地内) 0.10  0.11
雨水枡直上(敷地内) 0.10  0.12
正門前(敷地外)   0.09  0.11

 筆者が、上記にある「地上正門前」でDoseRAE2で測定した際には、0.09〜0.10μSv/h程度だったので、同一機種、同一地点では都の測定結果と一致している。

 上記の結果をみると、モタリングポストと地上の違いは、以前から指摘されているように高さによる違い(地上から離れるほど低くなる)に加えて、測定原理、測定対象による違いが大きいと思われる。

 測定原理については、上記のデータをみても分かるようにGM管(ガイガーカウンター)を用いた場合には高くなりやすい。これは先に指摘したとおりの特性である。

 都の今回の結果から、もう1つ違いがあることがわかる。同じシンチレーター方式を用いた場合でも単位が「μGy/h」の場合と「μSv/h」で数値が違うことである。

 「μGy/h」と「μSv/h」は対象が同じであれば(γ線に関しては)同じ単位だが、上記の結果の場合には評価対象が異なる。μGy/hは「空気吸収線量率」(空気が放射線を吸収する量)、μSv/hは「1cm線量当量率」(人間が放射線を吸収する量)を意味する。

 「1cm線量当量率」は皮膚下1cm(皮膚の表面より放射線の影響が大きくなる位置)に換算した値であるため、空気が吸収する「空気吸収線量率」よりも値が少し大きくなる。μGy/h単位の方がみかけ上の数値が小さくなる。TCS-166とTCS-172Bの違いはこの違いによるものと考えられる。

 モニタリングポストでは一般に「空気吸収線量率」による値(単位:Gy/h)を測定しているが、人間への影響の評価である「1cm線量当量率」に換算した場合には数値が少し大きくなるはずである。

 モニタリングポストの値を国や自治体が公表する際には、一般の人が正しく理解できるよう、高さによる違いに加えて、上記の点をきちんと説明し、個人線量計や周辺線量計による測定値(μSv/h)よりも小さくなっている点を説明すべきではないだろうか。