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震災がれきの広域処理を考える
シンポジウム
参加記

鷹取 敦

掲載月日:2012年3月13日
 独立系メディア E−wave 無断転載禁


 東日本大震災・福島第一原発事故から1年、2012年3月11日(日)「震災がれきの広域処理を考えるシンポジウム−法的問題・安全性を問う」が、明治大学駿河台キャンパスのリバティータワー1階1011教室にて開催された。主催は「震災がれきの広域処理を考えるシンポジウム実行委員会」である。


(撮影:鷹取敦)

 シンポジウムのちらしに開催の趣旨が掲載されている。
「東日本大震災から一年。災害廃棄物の広域処理が被災地支援として広がろ うとしています。一方で、放射能汚染などの問題から、安全面に不安がある として各地で反対運動が行われています。そこで、各分野の専門家に、それ ぞれの立場から広域処理に係る問題点についてご発言いただき、広域処理の どこに問題があるのかを総合的な視点から話しあう場にします。」

 災害廃棄物の広域処理については、放射能汚染についてのみ注目され国も反対の声も放射能汚染のみが問題であるかのようにとらえられがちである。しかし災害廃棄物の処理には、シンポジウムの講演者・パネリストの1人である池田こみち氏が東京新聞の記事「必要性」「妥当性」「正当性」として指摘したように多様な側面における課題がある。その課題は広域処理を行うことによるもの、広域処理を行わない場合でも災害廃棄物処理のあり方に関わるものがある。

◆池田こみち:広域処理は問題の山、「がれき、復興足かせ」疑問 東京新聞
http://eritokyo.jp/independent/ikeda_tokyonp_20120215.pdf

 今回のシンポジウムでは、これらの多様な課題のうち主要なものを現地被災地に何度も訪れている専門家、自治体議員、弁護士等が問題提起したものである。

 シンポジウムは第一部と第二部に分かれており、第一部で被災地の現場に何度も足を運んでいる専門家、自治体議員、弁護士等それぞれの立場から問題提起が行われた。

第一部:
永倉冬史氏(中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長)
 『災害廃棄物の分別のアスベストなどの有害物質からの問題点について』

池田こみち氏(環境総合研究所 副所長)
 『災害廃棄物広域処理の環境面からの妥当性について』
 レジメ:
  http://www.eforum.jp/ikeda20110311/ikeda-debriswideareatreatmetissue.pdf
 パワーポイント:http://www.eforum.jp/komichiIkeda_koikishori_sympo120311.pdf

奈須利江氏(大田区議会議員)
 『財政・地方自治制度・民主主義の論点から』
 シンポジウム直前に掲載された東京新聞の記事:
 http://eforum.jp/nasu_tokyonp_20120308.pdf

小島延夫氏(日本弁護士連合会 公害対策環境保全委員会 委員)
 『広域処理の法的問題』


 第二部は現地の災害廃棄物の状況をつぶさに視察し、ヒアリングを行った元自治体議員、自治体議員からの報告が行われた。震災発生の時間には開場全員による黙祷が行われ、その後第一部の講演者をパネリストとして、会場から事前に受け付けた質問への回答を含めたパネルディスカッションが実施された。

第二部:
現地報告 瀧川君枝氏(元横須賀市議)
      奈須利江氏(大田区議会議員)
黙祷

パネルディスカッション・質疑応答

 シンポジウムの様子は、IWJによりUSTREAMで実況中継されたが、映像・音声の状態が悪く、第一部の小島弁護士の報告の途中で中継が事実上止まってしまい、ネットによる視聴は十分には出来なかった模様である。E-wave Tokyo では会場で録画した鮮明なビデオを近日中に掲載する予定である。

 3月11日には他にも震災に関わるイベントが多数開催されているため参加者が分散しがちな中、シンポジウムには約120名以上の方が参加された。


■永倉冬史氏(中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長)

永倉冬史氏(撮影:鷹取敦)

 第一部の最初の講演者である永倉冬史氏(中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長)からは、震災廃棄物におけるアスベストの問題については、阪神大震災の経験を踏まえ、また今回の震災被災地において地元の方や作業をしている方にアドバイスしながら多くの現場を子細に視察した状況を報告された。

 永倉氏によると阪神大震災の作業者の中からアスベスト疾患と認定された方がすでに3名おられ、潜伏期間を考えるとまだこれから出てくる可能性があると指摘した。永倉氏が震災直後から現地入りされ、現地を視察し、アスベスト粉じんの測定をされた。がれきの中にはアスベストが含まれる建材が多くあることがわかり、現地の作業者や住民の方はほとんどアスベストに対する防護がされておらず、十分にアスベストが含まれるがれきが分別されいない状況が多数の写真を交えて報告された。初期のころには野焼きもされていたそうである。

 永倉氏は、アスベスト含有建材について作業現場から情報収集し表示を行うこと、アスベスト含有建材除去作業への監視監督の強化、住民、ボランティア、作業者への注意喚起と防塵対策の徹底、解体時の対策の徹底、搬送、がれき置き場での処理の改善などを提言された。


■池田こみち氏(環境総合研究所 副所長)

池田こみち氏(撮影:鷹取敦)

 池田こみち氏も被災地に何度も訪れ、現場、がれきの仮置き場の状況、復興が停滞している状況を子細に視察され、地元の方とも対話をされてきた。

 池田こみち氏は、まず必要性・妥当性・正当性からの評価が重要であることをまず指摘された。代替案の検討の透明性ある議論が行われているのか、環境面からの安全性について妥当性があるのか、経済面からの妥当性、遠距離の運送コス
トなども含み妥当性があるのかについて課題を指摘した。必要性について、定量的・具体的なデータを持って説明されていないこと述べられた。

 社会的な合意形成がはかられないまま、受け入れないのは自己中心的だという風潮を作り上げることで、被災地と他の地域の間に溝を作ってしまうようなやり方がいいのかが重要だとされた。広告代理店に税金を投入し新聞の全面広告、シンポジウムなどで世論誘導している実態、日本人が他の先進国と比較してマスメディアを信頼しやすい点が指摘された。

 環境面については、災害廃棄物安全評価検討会資料で明らかにされている灰や浸出水処理の問題、安全性に関する根拠が不十分であること、排ガス中の放射性物質調査の定量下限値を十分に下げて大量の排ガスに伴う放射性物質の総量を把握することの必要性等を指摘された。また、放射性物質以外の有害物質について、日本の規制は不十分でモニタリングも行われていない、規制も行われていないため、津波に油類、PCBをはじめとする化学物質類が付着したがれきの安全性は十分に確認されていないこと、米国環境健康科学研究所(NIEHS)もその点を警告していること述べられた。

 正当性については、本来議論には当事者である自治体等の関与があるべきだが、それどころか、災害廃棄物安全評価検討会が非公開、議事録も公表されずに実施されていること、議事録開示請求をしたところ議事録の作成も録音もやめてしまったこと等の問題について指摘された。


■奈須利江氏(大田区議会議員)

奈須利江氏(撮影:鷹取敦)

 奈須氏はまず、「広域処理」と「がれき処理」の問題がきちんと区別されていないこと、これらの議論に関して必要な情報が提供されていないこと等を指摘し、議員として調べてきたことを財政面、民主主義の面から報告された。

 本来は国と地方自治体は対等であるはずなのに、今回は国が決め、都道府県が宣言し、住民不在で結論だけが議論も説明も根拠も十分に示されずに、本来一般廃棄物処理の主体である市町村に押しつけられていることが、政策決定過程として問題で、反対の声があがる原因ではないかと指摘された。

 必要なことには税金を投入すべきであるが、代替案を検討し、最小の支出で最大の効果を上げるための検討が行われているのかという点を指摘された。現地における課題はそれぞれ異なる、正確で十分な情報の公開がなく「必要だ」ということだけで進められようとしていること、広域処理におおける運搬費用の割合が大きく処理単価が高いこと、受け入れ自治体には別途事務費や補助等が支給されさらにコストアップになっていること、現地で分別が行われたものをわざわざ混ぜて燃やそうとしていること、被災地の首長の中には地元で処理すべきという意見もあることを紹介された。

 奈須氏は処理量に応じた処理費用を国が被災地自治体に直接支給し、自治体の実情に合わせて自由に使えるようにするべきだと提案された。現地自治体の担当者も広域処理反対というと難しい表情を見せても、国のメニューに縛られず、自治体が処理方法も処理にかける時間も、自由に対応できるようにすべきという提案には同意されたそうである。


■小島延夫氏(日本弁護士連合会 公害対策環境保全委員会 委員)

小島延夫氏(撮影:鷹取敦)

 小島弁護士は、原子炉から放射性物質が出てしまった事態について法制度が全く想定していないこと、これまで放射性物質で汚染された廃棄物は廃棄物処理法の対象外となっていたこと、その結果今回の事故が起きた後全く対処できなくなっ
ていると指摘された。これまでにこの問題について誰も問題視しなかったわけではなく、小島弁護士が知っているだけでも5回の機会があったはずと述べられた。

 そもそも放射性物質が入ることを想定しないで焼却炉や処分場を作らずに、十分な実証実験が行わず、安全だと説明することは非科学的、マスコミもきちんと勉強すべきと、小島弁護士は批判された。

 事故以前の放射性物質の汚染の基準は100Bq/kg(クリアランスレベル)だったのが、今回は8,000Bq/kg以下ならふつうのゴミと同じように埋め立てていい、というのはおかしい、食べ物の暫定基準がクリアランスレベルよりおかしいのは矛盾していると指摘された。焼却処理による濃縮、灰からの汚染についての問題があると安易な焼却を戒めた。

 広域処理の問題ではないが、小島弁護士は除染の困難さも指摘した。表面の土や草木を一切取り除くことで土砂崩れの恐れがあること、仮にすべての汚染された表土等を取り除いた場合には、膨大な放射性廃棄物のもって行き場がなくなると、除染に大きな期待をすることの問題を指摘された。

 東京都でも廃棄物焼却灰から放射性物質が出ており、この汚染問題は短期的に解決するものではなく、長期にわたって取り組まなければならない問題と述べられた。

 このような不確定な問題については、自由な議論が出来ることが一番大切で、それを「わがまま」と封じ込めることはおかしい、公開と参加の原則が大切と述べた。それにも関わらず国は被災地における健康影響に関わる調査研究(疫学調査)を制約する「事務連絡」を出したという。

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 以上が、第一部における講演者からの報告の概要である。報告の詳細、第二部の現地報告、パネルディスカッションについては、後日掲載するビデオをごらんいただきたい。


パネルディスカッション(左から奈須氏、小島氏、池田氏、永倉氏)
(撮影:鷹取敦)

 今回のシンポジウムは、災害廃棄物の処理、その広域処理の問題に関して、必要性・妥当性・正当性について、政策決定・合意形成過程や地方と国の関係に至るまで多面的、幅広い観点からの公開された議論としては、はじめてのものではないだろうか。

 本来は、国が結論ありきでなく、このような議論を透明性のある形で、自治体・住民関与で行うべきであった。災害廃棄物の処理は数ヶ月で終えられるものではない。被災地の復興のためは今から仕切り直しをしても遅くはない。それにも関わらず国は「広報」に膨大な税金を投入することで、世論誘導を試み、一度決めた方針を強引に推し進めようとしている。

がれき広域処理・除染キャンペーンに国税30億円
http://eritokyo.jp/independent/takatori-fnp0010.htm