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1年経っても公開されない
資源エネ庁のQ&A作成事業

鷹取 敦

掲載月日:2012年3月14日
 独立系メディア E−wave 無断転載禁


 昨年の8月頃、資源エネルギー庁が広告代理店ADK(アサツーディー・ケー)に「平成23年度原子力安全規制情報広聴・広報事業(不正確情報対応)」という業務を発注した。

 2011年6月24日に入札公告があり、7月13日までに入札書・提案書が提出され、ADKが提案書により選定され、7000万円で委託されている。

 ■入札仕様書
 http://www.enecho.meti.go.jp/info/tender/tenddata/1106/110624b/3.pdf

 入札仕様書には
  1. ツイッター、ブログなどインターネット上の原子力や放射線等に関する情報を常時モニタリングし、風評被害を招くおそれのある正確ではない情報又は不適切な情報を調査・分析すること。モニタリングの対象とする情報媒体及びモニタリングの方法については、具体的な提案をすること。
  2. 上記@のモニタリングの結果、風評被害を招くおそれのある正確ではない情報又は不適切な情報及び当庁から指示する情報に対して、速やかに正確な情報を伝えるためにQ&A集作成し、資源エネルギー庁ホームページやツイッター等に掲載し、当庁に報告する。
  3. Q&A集の作成に際して、必要に応じて、原子力関係の専門家や技術者等の専門的知見を有する者(有識者)からアドバイス等を受けること。また、原子力関係の専門家や有識者からアドバイス等を受ける場合には、それらの者について具体的な提案をすること。
  4. 事業開始から1ヶ月程度で30問以上、事業終了時までには100問以上のQ&A集を作成すること。
とありQ&A作成を目的とするとされている。ADKへの発注が明らかになった当時、事業の建前はQ&A作成だがインターネット上で国民を監視・検閲するものではないかと問題視されたあの事業である。

 筆者は、監視・検閲をするような内容であるか実際の事業の進め方を確認すべく、7月29日に委託が決定したADKの提案書等の開示請求を行ったところ8月31日に開示決定通知書が届いた。

 開示決定通知書には、資源エネ庁の担当者より「提案書は事業者のノウハウに該当するためなかなか開示できる部分が少ないのですが、他にお知りになりたい事がありましたらお電話ください。」との付箋がついており、開示決定通知書の「不開示とした部分とその理由」にも同様の趣旨で一部不開示と記載されていた。

 すぐに開示を申し出たところ、ほとんど黒塗りの提案書(PDFファイルで1.5MB)が開示された。(これについては、異議申し立てを行い、現在この文書については内閣府情報公開・個人情報保護審査会で審査中である。)

 知りたいのは提案書そのものというよりも、事業の具体的な実施方法であったため、担当者に電話で相談したところ、内容はこれから業務の中で検討して決め
るということであった。途中段階での請求も行ったが、まだ内容が決まっていないということで簡単なフロー図が開示されたのみであった。

 2011年度の年度末も近づき、さすがに事業も実施されているであるはず(1ヶ月で30問以上、合計で100問以上が事業の要件なので)と考え、本日(2012年3月14日)、資源エネルギー庁の担当者に電話をしたところ、
  • Q&Aの掲載は3月末に報告書の納品を受けてからの予定
  • 事業の実施方法(現在「提案書」を対象に異議申し立てをしているもの)については報告書に記載されているので、今から開示請求をすれば30日の開 示決定の期日までには報告書を受領するので、開示決定の対象となる
とのことであった。驚いたことに、いまだにQ&Aの1つすら掲載されていない、のである。

 不正確情報に対応するという事業の目的が本当なのであれば、不正確情報が流れるたびに、逐次Q&Aを掲載されなければ国民の役には立たない。現にこれまでにいくつもの不正確な情報が流されては、一般の人々等により訂正されてきた。本来、資源エネルギー庁のこの事業が果たさなければならないのはこういう役割だったはずだ。

 ちなみに日本保健物理学会が「暮らしの放射線Q&A」(http://radi-info.com/)というのを作り、逐次更新されている。資源エネルギー庁がADKに7000万円で委託した事業は100問以上、とされているが、「暮らしの放射線Q&A」の方はすでに1,484件(3月14日現在)も掲載されている。筆者も放射線に関する情報を検索していて、何度もこのサイトの情報を見かけた。

 事故から1年、委託から7ヶ月経って1つもQ&Aが掲載されない事業について7000万円もの税金を広告代理店に投入するのでは、税金の無駄遣いというだけでなく、やはり国民を監視する目的だったのかと疑われても仕方がない。

 また、委託先として選定されたのが広告代理店である、という点から、

■がれき広域処理・除染キャンペーンに国税30億円
http://eritokyo.jp/independent/takatori-fnp0010.htm

と共通するものがあり、メディアに影響力を及ぼす目的か、と疑われても仕方がない。

 このような無駄な事業について、自治体であれば、住民監査請求や住民訴訟で、無駄な公金支出について問えるが、国については残念ながらその制度がない。

 東京新聞に関連する記事が掲載されていたので最後に紹介したい。

 
東京新聞・エネ庁ネット監視 原発デマ対策HP 半年経ても未完成
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012030102000038.html
2012年3月1日 朝刊

 東京電力福島第一原発事故を受け、放射性物質の健康影響などネット上で飛び交う原発や放射能関連の不正確な情報を打ち消すため、経済産業省資源エネルギー庁が正しい情報を発信するホームページ(HP)が、当初予定から約半年経過しても完成していない。同庁は、正しい情報の確認作業が難航しているためとし、完成を三月末に先送りした。

 食品への不安や風評被害が広がり、国民が正確な情報を求める中で、事故から一年近くたっても提供できない同庁の事業に批判が集まりそうだ。

 同庁をめぐっては、多額の税金を投じ、原発に関する新聞などのメディア情報を監視してきた問題が本紙の調査で判明。今回のHPは、同庁が監視の対象をメディアからツイッターやブログに変更したことに伴い、本年度から着手した。

 昨年五月の一次補正で急きょ予算を計上し、一般競争入札で落札した都内の広告代理店「アサツーディ・ケイ」に八月中旬、約七千万円で委託した。

 入札仕様書には「速やかに正確な情報を提供」することを重要点として明記。デマ情報を集めた上、事業開始から一カ月程度で三十項目以上、最終的には約百項目をQ&A形式でまとめ、昨秋をめどにHPに掲載するよう求めていた。しかし、HPは「現在改定中」とされ、情報提供が一切行われていない。

 エネ庁の担当者によると、広告代理店がデマ情報として集めた大半が放射能の健康影響についてだったが、専門家の助言が人によって見解が異なっている。また、食品規制や除染など国の対応が変遷したことも影響し「正解」の作成に手間取っているという。

 エネ庁原子力立地・核燃料サイクル産業課の武田龍夫原子力広報官は「放射性物質の健康への影響は国民の関心が高く、慎重に対応する方が良いと判断した」と説明している。

◆事業に必要性ない

 法政大の五十嵐敬喜教授(公共事業論)の話 言論の自由の観点から国が情報を監視すること自体、不適切な上、放射性物質が人体にどんな影響を与えるかは定説がなく、ある情報が誤りだと一律に判断するのは難しい。事業の難航は当たり前で、この段階でもホームページが作成できないなら、正当性や必要性がないことは明らかだ。