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福島県産米の全量全袋検査現場視察

−白河市内の検査場−
(その3・質疑)


鷹取 敦

掲載月日:2013年8月3日
 独立系メディア E−wave
無断転載禁


 質疑によって分かったことは以下の通りである。

●検査主体と費用負担

 検査の主体は市毎に設置されている協議会で、費用は県が東電と交渉し、東電負担となっている。東電負担は、機器の費用、運用コスト(検査に必要な人件費含む)を含むが、福島産の価格が他県より2000円ほど低いことに対する補償はこれには含まれない。全国的に米価が上がっているために、他地域との価格差はあるが補償の対象にはなっていない。(他県では一俵15000円のところ福島県では13000円くらい、採算ラインぎりぎりとのこと)

 なお、米だけでなく野菜も福島県産は他県産より安い。米、野菜の価格は相対取引で決まっている。つまり農家は足下をみられている。事故直後は1円でも買ってもらえるだけましだろうと言われたこともある。


●平成24年度の検査の実績

 この検査場は1日に1200袋くらい検査している。

 白河市では去年60万袋検査したうち4袋がスクリーニング検査を通らず詳細検査となったが結果として100Bq/kg超えはなかった。スクリーニング合格したもののうち99.92%は定量下限値(25Bq/kg)未満。ちなみに白河市では、米も野菜も基準値超えはなかった。

 県内でも地域によって状況がだいぶ違うが、白河市内には作付け制限となっている地域はない。


●検査精度管理に関して

 雨の日の影響(自然起源によるビスマス214、鉛214)によるバックグラウンドの上昇、誤検出への対応については、バックグラウンドは毎日測っているが、雨の影響による誤検出の可能性には特に対応していない。仮に誤検出で高くなった場合があっても、詳細検査で精密に測定するので問題はない。

 放射線のエネルギー毎の測定の記録であるスペクトルデータは検査器を制御しているPCに保存されており、PCから必要な時にいつでもスペクトルを確認できる。


●測定データの集約について

 検査結果は検査場だけにあるのではなく、暗号化されたデータがUSBで集められ全体を集約される。(全体の状況を集計できるのも、袋に貼られたQRコードで確認できるのも集約されているから。)

 貼付されたバーコード、QRコードは、誰でも任意に確認できる(QRコードは携帯電話で確認できる)ようになっている。


●苦労されている点

 新米でなくなると価格が下がることもあり、収穫期は、夜中の12時近くまで検査作業する状態が1ヶ月ちょっと続く(9/20頃〜10月いっぱい)。

 検査に時間がかかるので出荷の遅れが生じる。ストックの倉庫代、運送費がかかる。

 短期に大量の検査を実施しなければならないので、人集めが大変。重労働であり、とくにフォークリフトの運転が必要なので、誰でもいいということではない。人件費は補償されるが年に1ヶ月だけの仕事なで人手が足りない。復興関連工事等でフォークリフトを使える人が出払っている影響もあるかもしれない。


●米の汚染と土壌汚染、空間線量率の関係

 現在では低線量の地域においては、土壌汚染、空間線量率と米の汚染は関係なくなっている。土壌中にカリウムがあるとセシウムを吸収しにくいことがわかっており、カリ肥料を施肥することで吸収量を下げている。カリ肥料は国庫補助の対象となっている。ただし、カリウム過剰は生育に問題があり味にも影響するので、バランスをとっている。そのノウハウは県の農業試験場等を通じて県内で共有されている。

 水の懸濁物にセシウムが含まれることはあるが水に溶解はしない。水の汚染の影響はない。


●25Bq/kgを下回る濃度の分布把握について(どれくらい低いのか)

 全量全袋スクリーニング検査とは別に、ゲルマニウム検出器による詳細検査(サンプリングしたものを対象)は去年までは実施しているが、今年はやらなくていいことになっている。ただし、サンプリングでもGeによる詳細検査をやれば基準値以下の水準でどの程度のレベルなのか、低下しているのならその状況がわかっていいのではとの質問に対しては、その通り、やる意義があると思っているとのこと。


●検査されない米が存在する可能性、小売り段階での確認

 一般に販売する米以外の、自家消費と縁故米も測定の対象だが、自家消費で測定されてるのは9割くらいだろう。全体的に低いことが分かっているのと、自宅でお年寄りが食べるだけなので測らなくても問題ないだろう、と思っている人がいると思われる。自家消費米等も市に持ち込めば無料で測ってもらえる(定量下限値25Bq/kg)。

 また、自由化で米の流通が複雑になっているので、すべての流通経路をチェックできているかどうか分からない。ただし測定したかどうかはバーコード付のシールで確認できるので、測定されていないものは流通されないはずではあるが、完全に確認するのは難しい。(未測定の米が流通しているとなると全体の信頼が下がるので、測定しない動機は小さい。)

 小分けした小売り用の袋で測定済みかどうか確認が課題となっている。「安全な福島県のお米」シールがあるが、これはトレーサブルになっておらず、証拠にはならないが、全袋調査なので検査されていない米がほとんど存在しない。


●今後の課題

 以上、現場を視察することによって、全量全袋検査の実態、課題も含めて多くのことを知ることができた。快く視察させていただき、丁寧に説明され質問に答えていただいた検査場の方および市役所の担当者、そして視察にお誘いいただいた入澤氏には心より感謝申し上げたい。

 参加された方は、現場をみて説明を聞いて議論をすることで理解が深まり信頼が増したようであった。また今後の活動について提案もされていた。

 県は全量全袋検査を当面3年間実施するという予定であることを、入澤氏より帰路の途中でうかがった。しかし福島産の農産物が置かれた状況を鑑みると、3年で終了とすることは難しいだろうと感じる。全量全袋調査をしているからこそ、福島産であっても安心して購入している消費者もいるだろうし、むしろ近隣他県より安心だという声を聞くことすらある。

 現状の検査態勢の課題としては、
  • 福島全県で収穫期に集中するこの大変な作業を今後長期間にわたって続けていくことの負担
  • 東電の費用負担がなくなった時の検査体制
  • 小売り用の小袋単位でのトレーサビリティをどう確保するか
  • サンプリング調査であっても定量下限値を下げたゲルマニウム検出器による検査も平行して続けることで定量下限値(25Bq/kg)未満の実際の濃度がどの程度であるか、その傾向を示す必要があること
  • 可能性が少ないとはいえ、検査が行われない袋が流通する可能性が皆無とはいえないことから、この点をどうカバーしていくか
などがあると思われる。

 全量全袋検査の負担の実態、その前段階として栽培段階での工夫と努力を知るにつけ、福島第一原発事故がもたらした被害が、放射線のリスクそのものやその不安だけでないことがよく分かる。またここで生じている負担は東電による費用負担(補償)だけではカバーしきれないものであることも分かる。

 このような苦労と負担が長期間続くことが、地域社会の疲弊につながることになっては、被害者である福島県の農家にさらなる苦痛やストレスををもたらすことになる。より信頼性のある検査体制を確立することと同時に、筆者も実態を知った上で一消費者として自分なりの判断をしたいと思う。