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原発増設より
分散型発電社会を

鶴岡憲一
2011年4月6日
独立系メディア E-wave Tokyo

LiveDoorブログ版

 東電福島第一原発事故は、復旧のカギとなる冷却水循環系の修復作業について、作業現場の放射能レベルを下げて環境を改善し作業を行いやすくする目的ながら、確信犯的に放射能汚染水を海に放出せざるを得なくなるという深刻な事態に陥った。初期段階での海水注入による冷却の遅れが復旧作業を難しくし、事故の規模を拡大したことは明らかだろう。

 放射性物質の拡散範囲は地球規模になりつつあり、太平洋への汚染水放出は韓国のような隣国からさえ不信の目で見られ始めている。コンピューターシステムのトラブルに似て、原発という巨大システムで万一の事態が起きた場合の影響は他の発電システムと比べても比較にならないほど大きく広がることを示したと言える。

 それにもかかわらず、また、同原発の冷却水循環系の復旧見通しが全く立っていないにもかかわらず、東電は3月末、福島県に対して7、8号機の増設方針を盛り込んだ2011年度の電力供給計画を提出したという。

 原発は東電などの大手電力会社が経営上有利な地域独占供給を続けるうえでの基幹施設となっているほか、設置面でも廃棄物処理の面でも国の予算のバックアップを受けられるため、福島県民の神経を逆なでするような厚かましい計画へのこだわりを見せたとみられる。

 福島県側の反発を受けて当面は計画を撤回するようだが、注意しなければならないのは、依然として「電力の安定供給は必要」、「再生可能エネルギーには供給力に限界がある」などという名目で原発増設の可能性を残そうとする議論が一部専門家から出始めていることだ。

 国土が狭いうえに地震の引き金になる海底プレートが錯綜・集中している地震大国・日本で、放射性廃棄物の最終処理場確保の見通しもないまま原発を増やしてきた危うさは、大事故となった福島第一原発に約1万本ともいわれる使用済み燃料棒が保管され、過熱を防ぐための注水が必要になったことにも示された。そんな事情を再点検もせずに原発再興を求める陰には、国民の安全確保とは無縁な利害絡みの動機があるのだろうと推測したくなる。

 “原子力村”に属する学者を含む専門化が原発増設論者が放射性廃棄物のほか膨大な量になる廃炉に伴う廃棄物の処理場問題に沈黙を守り続けているのは不誠実と言われても仕方ないだろう。

 もちろん、現在稼動中の原発をただちに廃止することは、原発の電力負担率が3割を超えている現状では非現実的である。しかし、それへの依存率を下げるためにも、これまで原発につぎ込んできた巨額な予算の多くを再生可能エネルギー向けに投入していくことが、今回のような大きな災厄の再発を避けるためにも欠かせない。

 そんな方向転換で改めて注目したい選択肢のひとつに、NTTファシリティーズが5年以上前から国内で提唱してきたマイクログリッド方式がある。最近は、スマートグリッドと呼び方を変更していることで分かるように、オバマ大統領が就任して地球温暖化抑制と環境産業振興を兼ねて打ち出したエネルギー政策の柱のひとつと似たものだ。

 その方式の発電は、太陽光や風力発電、燃料電池などのクリーンエネルギーを中心行う。ただ、特に自然エネルギーの場合は需要と関係なく発電が行われるため、使われない電気を高効率蓄電池に貯めたうえで、情報技術を駆使して電気を使いたい事業所や家庭などに配分する。一家庭や一事業所単位でなく、一定範囲の地域が単位として想定される地域分散型発電・供給方式である。

 メリットは、原発のような大規模集中型発電の場合、万一の事態の環境汚染や各種産業への影響が甚大になる恐れがあるのに対し、地域分散型発電は環境調和タイプなうえ、発電・給電トラブルが起きても影響は限定的にとどまる点にある。

 日本型スマートグリッドでは当面は大手電力会社系統との連携を前提としているが、蓄電池の性能が大幅に高まれば独立自給型となる可能性を秘めている。

 NTTファシリティーズがこの方式を提唱し始めたころの説明会に出向いたことがあったが、広い会場に企業関係者を中心に数百人が聞き入った熱っぽい盛り上がりぶりが記憶に残っている。

 もし、経産省・資源エネルギー庁が当時から強力にバックアップしていれば、オバマ政権に先駆けて世界で主導権を握り、日本のエネルギー産業の興隆につなげる可能性が高まったと思われる。しかし、この方式が発展して地域自給型分散発電が普及した場合は、大手電力会社の電力供給シェアの低下とともに地位も大幅に下がる。同省高級官僚の天下り先としてのうま味も減るだろう。

 そうした事情がグリッド方式へのてこ入れの壁になったろうと考えられる傍証のひとつに、同省系研究開発機関がかつて行った燃料電池の実効性評価調査に関わった専門家の一人が「有意な効果があるとの結果になったのに、公表を止められた」と証言した事実がある。

 他方、エネ庁のなかでも自然エネルギー普及のための規制緩和に熱心に取り組んだ官僚から「電力会社側から“非国民”と言われました」と聞かされたこともある。電力会社側は「電力の安定供給という国家的課題に取り組んでいる電力会社の発電シェアを下げるような自然エネルギーの普及を進めるとは何事か」という不満をぶつけたと解釈できるエピソードだった。

 結局、規制緩和は実現して自然エネルギーと大手電力会社の電力系統との連携が可能になり、その後の太陽光発電ビジネスが一時、世界トップレベルに達する成果につながった。だが、規制緩和努力の中心になった官僚は、緩和実現後、実質左遷とみなせる人事異動で省外に転出させられた。

 その後、経産省は太陽光発電設備の設置補助を始めたが、途中で打ち切ったため太陽電池製造量でも太陽光発電量でも日本はトップの座を失った。それを批判された結果、経産省は補助を再開するという迷走振りを見せてきた。

 今や、“非国民”なるものが温暖化抑制につながる再生可能エネルギー普及政策推進者なのか、東日本に大災厄をもたらしたような原発増設政策推進者であるのかは明らかだろう。

 メディアのなかには、地域分散型発電の可能性を知ってか知らずか、燃料電池を含むクリーンエネルギーが現状では電力会社系統の配・給電網に依存していることを理由に、クリーンエネルギーの発電シェアを高めることには限界があると言わんばかりの報道を行っているケースもある。

 だが、クリーンエネルギー発電の発電シェアを高めることによって現時点での限界を乗り越えていく必要性を伝えてこそ、今回の原発事故の教訓を今後につなげられるはずだ。