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ニュージーランドの政治と
「緑の党」の選挙について


吉川ひろし(前・千葉県議)

掲載月日:2011年12月4日
 独立系メディア E−wave Tokyo

 
 ニュージーランド(以下、NZ)の面積は日本の3/4で、人口は日本の1/30の420万人程度です。NZは北島と南島に分かれていて、一番大きな都市は北島の商業都市オークランドですが、首都は北島の一番南に位置するウェリントンです。なお、日本と同様に地震国で、今年の2月に南島のクライストチャーチで震災による大被害が出たのは記憶に新しいと思います。


吉川ひろしさん

 NZは南半球ですので日本と季節が逆で現在は夏です。夏と言ってもウェリントンの昨日今日の気温は20℃前後で風の強さを気にしなければ、警察官はピストルも所持していないほど犯罪も少ないし比較的すごしやすい街です。

 私は10月13日に「緑の党」の選挙応援に首都ウェリントンに単身で来ました。NZの国政選挙は3年ごとに施行されて、今年の11月26日(土)が投票日でした。こちらの選挙は投票日の3ヶ月前から公式に選挙運動が開始されます。従って、選挙期間は8月25日から11月25日までです。

 なお、18才以上は投票権と被投票権が付与されています。事前投票は投票日の17日前の11月9日から出来ますが、住民票の無い国なので有権者は「選挙登録をする義務と無登録者には罰金」があります。しかし、オーストラリアのように「投票しないと罰金」という制度ではありません。

 投票率は前回までは80%前後の高い投票率を誇っていましたが、今回はマスコミの事前予測で政権与党のNational党(国民党)がKey首相の個人的人気と相まって圧倒的に強く、もう一方の大政党のLabour党(労働党)の不人気もあり、有権者もしらけて73.83%という歴史的に最低の投票率でした。しかし、史上最低の投票率が73%ですので、日本の前回衆議院の投票率69%と比較してもNZの方がまだ高いと言えます。

 私は選挙期間中「NZ緑の党」の選挙事務所にほとんど毎日通いましたが、国際ボランティア部署ということもあり、地元のボランティアの他、アメリカ、カナダ、英国、オランダ、ドイツなどから若者が中心に駆けつけました。駆けつけると言っても、多くは旅の途中で手伝うという感じで入れ替わりもあり、いつも10人前後で朝9時30分から夕方5時30分ぐらいまで活動していました。

 こちらの選挙テクニックは日本のやり方の方が効率的な所も多々あると感じましたが、街宣車やマイクを使って大きな声で連呼するような選挙ではありませんでした。騒音には敏感な人が多く、静かな暮らしをしていますので、街宣車や大きなマイクでの演説は逆効果とのことでした。

 その代わり、地域の公民館、小学校、大学、パブ、テレビ、マスコミなどの公開の場で候補者同士が自分たちの政党の政策を徹底して討論している選挙で、こちらの方が政党や候補者の主張が有権者に分かりやすい選挙ということを感じました。

 選挙活動は、日本では禁止されている戸別訪問、WEBの更新、名刺や写真入のチラシ配布は自由に出来ますが、日本と同様にインターネットメールやフェイスブックの活用、電話での投票依頼も行います。

 さて、11月26日の投開票の結果「緑の党」が9議席から4議席増えて合計13議席になることが確定しました。さらに海外居住者や地震被害で投票が遅れた人などの「特別票」が約24万票残っていて、それが12月10日までに集計・発表されると、比例で「緑の党」はもう一議席増えて14議席になる可能性が大きくなっています。

 それでは、何故、120議席(選挙区70、比例50)の国会の議席数の中で、少数政党の「緑の党」が選挙区では全滅でも、比例区で13人も14人も当選できるのか?という疑問についてNZの「MMP選挙制度」( Mixed Member Proportional electoral system )について述べます。

 MMPとは「小選挙区比例代表併用制」と書くと、ちょっと聞いただけでは分かりにくい選挙方式のようですが、要するに少数政党からも当選者を出しやすい選挙制度と言われ、有権者は2票を有し、比例区では政党に、小選挙区では個人候補に投票します。 

 先ず、基本的120議席は政党の得票率で比例配分され政党の議席数が決まりますので、選挙は選挙区の候補者の当選よりも政党間の得票率を争う選挙になります。これは、個人票よりも政党の政策が重視される選挙でもあります。ただ、各政党は全国で5%以上の支持票をとらないと政党として認めてもらえず比例では議席の確保は出来ません。

 また、各政党では全国の小選挙区で当選した人に優先的に議席が与えられますが、優先すべき基準はあくまでも政党の得票数に応じた得票率です。

 NZは、この「MMP選挙制度」を長い年月の政治闘争を経て1996年から採用していますが、この選挙制度が「緑の党」の躍進に大きく寄与しています。ただし、政権与党のNational(国民党)はMMPの廃止を虎視たんたんと狙っていますので、今回、MMP選挙制度が選挙と同時に「国民投票」にかかることになりました。しかし、今回の「MMP国民投票」の結果、MMPの存続に半数以上の支持(53.74%)があったので「緑の党」の関係者もホッとしています。

 今回の選挙と国民投票の結果は、まさに、NZの民主主義が生きているということを実感しました。
選挙制度は民主主義の重要な道具です。どのような選挙制度で選挙が行われるかによって民意の反映が違ってきます。逆に言えば、どのような選挙制度を採用しているかによって、その国の「民主主義(度)」が分かります。

 日本の私の身近な人でも、「選挙で決まったから仕方がない」という人がいますが、それは明らかに「選挙=民主主義」という錯覚をしているに過ぎません。

 NZの選挙の供託金は約2万円(300NZドル)です。日本は選挙区で300万円、比例区で600万円という世界一高額な供託金です。これは日本国憲法第44条の「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。

 但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。」という規定に反し、高額な供託金という金銭=財産や収入によって選挙に出られない人を差別していると思います。

 今年3月の福島の原発人災事故後も放射能汚染に国民をさらしたまま、子供たちの健康的な将来よりも人間がコントロールできない原発の推進を優先して海外にまで輸出することを画策している日本の政治に対して、この国の「NZ緑の党」の方々からは「クレイジー」という声を私に寄せています。

 このようなクレイジーな政治を変えるには、選挙制度をもっと民意が反映しやすい制度に改変し、世界一高い供託金は廃止させる国民世論が必要です。また、真の民主主義を勝ち取るには、私たちが愛する日本の異常さに気がつく必要が多々あります。そして気が付いた人から声を上げ、行動を連帯しておこなうことが肝要です。

 国連加盟国は192ヵ国、加盟していない国々を含めれば200ヵ国以上の国があります。この同じ地球上で暮らす70億の人々が戦争で殺し合うようなことではなく、環境汚染や金融経済で苦しむのではなく、一人ひとりが一人の人間として幸せを感じられる日がいつかは到来することを夢として私はこれからも国境を超えて発信していきたい・・・。