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「もの言わぬ株主」が
立ち上がった


脱原発・東電株主運動 事務局
木村結


2011年7月10日

初出:独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


 今年の東京電力株主総会は参加者9309名、所要時間6時間9分、入場者の荷物検査をする警官、私たちがビラ配布するのを邪魔する警官、そして国内外から詰めかけた報道陣とすべて異例ずくめでした。

 それは 3.11震災を起因とした福島第一原発事故、今なお続く放射能汚染、事故の過小評価とデータ隠し、その東電体質に株主がどのように動くのか、国民が期待し見守った一日でした。

 しかし、東電はこれまでの株主総会と何ら変わることのない総会運営をし、事故を深く反省する姿勢は皆無でした。

 私たち脱原発・東電株主運動は1989年に起きた福島第二原発3号機の回転板脱落事故とその際のデータ隠しなどを契機に株主となって脱原発を訴え、実現しようとその年から総会に参加。1991年には3万株以上を集め、以来株主提案を続けています。

 20年の中では、私たちが提案した役員数の削減、自然エネルギーの開発などその後実現したものもありますが、私たちが毎年問題にしてきた原発の重大事故は起こってしまいました。東電にとって決して「想定外」と言い逃れ出来るものではなかったのです。

 東電の株主総会では、事故を起こしてもなお会長に居座った勝俣恒久氏が議長を務め、3度出された議長不信任動議では、他の役員に一旦議長を譲って審議という常識すら知らぬかのように自らが審議し「賛成多数」と宣言し、株主の怒りを沸騰させました。

 更にメイン会場3000名、第2〜5会場また廊下まで溢れた株主には「発言したい方はメイン会場に移動、賛否の際は係員が促す」と明言していたにも関わらず、メイン会場以外の株主には何のアナウンスもされず、賛否の挙手はおろかただ大写しにされた役員たちの顔を見続けることしか許されませんでした。 

 賛否のカウントを採るよう再三出された動議にはついに「会場にご出席の株主数9282名1,306,633個お二人の株主様より委任状をいただいておりその株数は1,070,810個であり過半数を大きく上回っております」と議長自らこの総会はまったく意味のない出来レースであることを 高らかに宣言してしまったのです。

 議長の目の前に座った大手生保の代理人ふたりの手が挙がるのだけを見ていれば良い、40%を超える個人株主に支えられている東電の最高責任者が、個人株主がどんなに会場に足を運ぼうが、大口の法人株主のことしか見ていないことを明言してしまったのです。

 更にある株主が「この株主総会を世界中が注目している。あなた方の答えが、様々な格付け会社の格付けに影響する。希望を聞きたい」と発言すると勝俣会長は「希望とおっしゃるが、残念ながら希望は見えておりません」と発言。世界的に影響を持つ大企業の会長として失言では済まされないお粗末な回答でした。

 きっと総務部法務局が用意した数百頁に及ぶ想定問答集には用意されていない質問だったのでしょう。ですからつい勝俣会長の本音が出てしまったのです。会場の株主は落胆を露にしました。しかし、殆どの株主は会場にとどまり、402名の株主が提出した第3号議案「原子力発電からの撤退」の審議に向かいました。

 福島県田村市で被災し、金沢に移り住む浅田さんの訴えにそれまでヤジの絶えなかった会場は静まり、福島の方々の痛みを共有しました。最後に動議提案に立った紀藤弁護士は、「この3号議案を否決するということは、この後の事故等の一切に皆さんが責任を持つということ」と役員に激しく迫りましたが、役員は誰一人最後まで自分の言葉で語ろうとはしませんでした。

 会場に詰めかけた株主は最初の頃はためらいがちに挙げていた手も第3号議案には堂々と挙がるようになり、前から6列目に座っていた私は後ろから吹く力強い風を感じました。

 新聞週刊誌などは無配になった経営責任を問うヤジが多かったように書くものや、「株主としての自覚がない」などとしたり顔で言う評論家がTV画面に映されたりしましたが、総会会場での株主からの発言は、殆どが原発からの撤退を求める声、そして株価が下がったり配当がないのは無責任な役員に経営を任せていたからだという株主としての反省の声でした。

 日本では会社の社会的責任を株主が問うたり、社会的貢献度の高い企業に応援投資をしたりすることが根付いているとは言えず、株式投資というと利益目的、配当目的が殆どです。

しかし、脱原発のために東電の株主になって22年。30分で終わっていた株主総会が3時間になり、そして6時間を超す事態を迎え、事故が原因とは言え株主たちはこれまでの無関心を反省し、株主としての社会的責任を果たすために立ち上がったのです。

東電の代表電話は総会運営への抗議で繋がりにくくなっています。世界中に放射能を今なおまき散らしている東電に対し、委任状を出した企業や東京都などの自治体も責任を問われなければなりません。投資家向け助言機関大手の日本プロクシーガバナンス研究所(JPG)も私たちの脱原発提案に賛成するよう正式表明したり、福島県南相馬市と白河市も賛成を表明するなど情勢は着実に動いています。

これからは企業同士の株の持ち合い、もたれ合いが出来ない社会を市民の監視と行動で構築していかなければなりません。それがひいては日本企業にもっとも欠けている情報公開を進め、社会的責任を果たしていくきっかけになると思っています。