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【解説】インドネシアの
銅と利益をめぐる争い

Sputnik日本語版
War in Ukraine #1748 20 Oct 2022

独立系メディア E-wave Tokyo 2022年10月21日

グラスベルグ鉱山 - Sputnik 日本, 1920, 18.10.2022
CC BY-SA 2.0 / Richard Jones / Grasberg pano



インドネシアのパプア州にある鉱山の位置
出典:グーグルマップ


◆グラスベルグ鉱山の概要 出典:Sika及びWikipedia

 グラスベルグ鉱山はフリーポート・マクモラン社が操業し、同社とリオ・ティント社が共同所有している世界最大級の鉱山塊の一つ。同鉱山は、インドネシア・パプア州スディルマン山脈内の非常に奥深い高地に位置している。グラスベルグ鉱体は、高品質な銅金を埋蔵し、莫大な産出量を誇っている。

 グラスベルグ鉱山(インドネシア語: Tambang Grasberg、オランダ語: Grasbergmijn)とは、世界最大の金鉱山で世界三位の銅鉱山であるインドネシアパプア州にある鉱山。グラスベルグ鉱山はパプアの最高峰プンチャック・ジャヤの近くに位置し、19,500人の雇用を生んでいる鉱山で、その多くはフリーポート・マクモランによって所有されている。 同社はインドネシアで実際に事業を行う子会社のPTフリーポート・インドネシアの株式の90.64%を所有しており、そのうち9.36%は完全子会社のPTインドカッパー・インヴェスタマが所有している。

 残りの9.36%の株式はインドネシア政府によって所有されている。フリーポート・マクモラン(FCX)はインドネシア政府との合意の下に、同鉱山の開発、操業、生産を24,700エーカーの広さを有するA地区で行っている。また合意には50万エーカー程度の広さを有するB地区での開発行動も含まれている。現在のフリーポート社の鉱物供給は全てA地区で行われている。2006年の生産高は銅が610,800t、金が58,474,392g、銀が174,458,971gとなっている。


本文

 インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、同国のパプア州で銅鉱石を採掘する鉱業企業 PTフリーポートインドネシアが国家の管理下に置かれたと発表した。

 インドネシア国営企業 PTイナルムのシェアは9.3%から51.24%に上昇した。以前の所有者フリーポート・マクモラン(FCX)のシェアは48.76%まで減少した。

 大統領は喜んだ。ジョコ大統領は、税金、関税、その他の支払いを計算すると、インドネシアは今や、銅鉱石の採掘からもたらされる全収益の約70%を受け取っていると表明した。

 一方、1912年から存在しているフリーポート・マクモラン(FCX)にとって、インドネシアの鉱山は最も重要なプロジェクトの1つであり、売上高の約半分を占めていた。なぜフリーポート・マクモランは株式の41.9%をインドネシアへ譲渡することに合意したのだろうか?

埋蔵量はまだ相当ある

 パプア州にあるグラスベルグ鉱山は、世界最大の銅鉱山とよく呼ばれている。

 銅(鉱石1トンあたりの平均含有量11.5キロ)のほかに、金(1トンあたり0.76グラム)や銀(1トンあたり3.61グラム)もある。

 PTフリーポートインドネシアによると、鉱石1トンあたりの採掘および処理にかかるコストは、23.8ドル。なお、2022年初旬の価格によると、抽出された金属の価格は銅が63.3ドル、金が20.3ドル、銀が1.4ドル、計85ドル。PTフリーポートインドネシアは収益性の高い鉱業企業だ。

 一方、鉱床は半分以上が採掘されている。

 当初、鉱石の推定埋蔵量は36億トンだったが、2022年1月時点ではその45%にあたる16億7000万トンとなっている。地表近くにある鉱石は採石場で採掘された。地表近くにある鉱石はすべて採掘され、残ったのは地下に埋蔵されている鉱石のみとなったが、かなりの量がある。可採埋蔵量は銅が1440万トン、金が753.8トン、銀が3668.4トン。

 FCXは1967年、外国投資家に門戸を開いたインドネシアのスハルト政権下で鉱床開発の許可を得た。あらゆる面において有利ではあったが、プロジェクトは驚くべきものだった。海抜約1900メートルの山で鉱石を採掘、濃縮したあと、長さ166キロのパイプラインでアママパレの港まで輸送しなければならなかった。FCXは、すべてをゼロから構築することになった。そこにはテンバガプラ町の建設も含まれた。

 インドネシアからの銅精鉱の輸出による収入は、すべての初期コストを何倍も上回った。

 FCXは徐々に鉱石の地下採掘へ移行した。原則的にFCXは鉱床を最後まで開発する用意があり、鉱業・資源大手リオ・ティントというパートナーを見つけたが、以前の非常に有利な条件に限られた。

圧力をかけて買収

 インドネシアの現政府は、スハルト政権の外国投資家へのアプローチにまったく同調しておらず、外国投資家がインドネシアの地中から単に鉱石を掘りつくすことを許すつもりはない。

 2009年には事業開始から10年以内に企業は株式の51%をインドネシアの政府または国営企業に譲渡しなければならないという法律が公布された。FCXは2021年に終了する契約をインドネシアと結んでいた。

 またインドネシア政府は、鉱石の地下採掘を発展させ、銅精鉱ではなく、はるかに高価な銅を輸出するための製錬所の建設をFCXに提案した。

 この場合、インドネシア政府ははるかに多くの利益を得ることができる。地下鉱山には50億ドル、精錬所にはさらに20億ドルの費用がかかった。その見返りとして、インドネシア政府は契約を2041年まで延長することを提案した。

 FCXは当初、拒否した。

 交渉と争いは困難なものとなった。しかし2017年8月、FCXは最終的に要件に同意した。

 PTイナルムがPTフリーポートインドネシアの株式41.9%に対して38億5000万ドルを支払うという合意が結ばれた。2018年12月、インドネシア政府はPTフリーポートインドネシアに2041年までの鉱物採掘の特別なライセンスを付与した。

 このような形で利益をめぐる争いが起こった。インドネシアの大統領は、鉱業企業の利益のシェアを増やしただけではなかった。大統領は、より価値のある製品の販売利益の一部も得ようとした。

精鉱と金属による利益はいくら?

 値を示すために、現在の価格でおおよその計算をしてみよう。

 24%の銅精鉱の価格は1トンあたり1315ドル。精鉱を生産するためには約20トンの鉱石が必要で、その採掘コストは476ドル。言い換えると、精鉱1トンあたりの採掘と販売による利益は839ドルとなる。

 銅1トン当たりの価格は7596ドル、銅1トンを精錬するためには4.1トンの精鉱が必要であり、販売価格は5391.5ドル。銅製錬による利益は2205ドル。銅1トンは、グラスベルグで採掘された銅鉱石82トンで、計1951.6ドルである。

 したがって、PTフリーポートインドネシアが精鉱のみを輸出する場合、インドネシアは精鉱1トンあたり429.9ドルを受け取ることになる。

 銅製錬が確立された場合、インドネシアは出来上がった金属の価格から鉱石採掘のコストを差し引いた全額5644.4ドルを受け取る。インドネシアのシェアは6.7倍超の2892.1ドルだ。

 FCXが銅製錬所の建設を拒否し、強い圧力にさらされたのは驚くに値しない。利益を分け合いたくなかったのだ!

 大量の鉱石を採掘するためには多額の投資を行う必要があり、その経済効果は幾分異なってしまう。PTフリーポートインドネシアによると、2026年まで年間7400万トンの鉱石を採掘する計画。設備投資は13億4000万ドル、運用コストは20億ドルと見積もられている。

 年間に銅71万400トン、金35.5トン、銀148トンが採掘される予定。金属の価格は合わせて約63億ドルとなる。純利益は年間29億6000万ドルで、そのうち15億1000万ドルがインドネシアのものとなる。

 精鉱のみを輸出・販売する場合、純利益におけるインドネシアのシェアは7億7800万ドルとなる。したがって、インドネシア大統領の努力が国を豊かにすることは明らかだ。