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【視点】
ロシアが新START
への参加停止 
この先何が起こるのか

Sputnik日本  War in Ukraine #2818 21 Feb 2023


独立系メディア E-wave Tokyo 2023年2月22日
2023年2月21日, 23:30 (更新: 2023年2月22日, 04:55) プーチン大統領の年次教書演説 - Sputnik 日本, 1920, 21.02.2023 © Sputnik / Ramili Sitdikov / メディアバンクへ移行

本文

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日に行った議会への年次教書演説のなかで、新戦略兵器削減条約(新START)への参加を一時的に停止すると表明した。

 このことは世界全体にどのような影響をもたらすのか、国際安全保障の形を変えるものとなるのか、スプートニクは国際情勢に詳しい専門家に話を聞いた。

 ロシア政府付属財政大学のゲボルグ・ミルゾヤン准教授(政治学)は、スプートニクの取材に対し、ロシアの参加は条約に基づく監査について米国と合意できなかった2022年時点で事実上停止していると話す。

 これは監査の実施条件が米国にとって一方的に有利で、ロシアによる米国領空での監査権を認めないものとなっていたからだという。

 「今回のプーチン大統領のこの表明は、演説冒頭で述べた『西側は信頼できないため、当面はいかなる協議の展望もない』という文脈でも理解すべきだ。少なくとも、現在西側がロシアに提起している条件ではありえない。

 この視点でみれば、ロシアの事実上の新START拒否は非常に重要だ。米国が行き過ぎた行動をとったため、ロシアは核のエスカレーションの準備ができている。ロシアはもはや自らを抑えず、最後まで国益を守る道を選ぶことになる」


年次教書演説 - Sputnik 日本, 1920, 21.02.2023

ロシア、新STARTへの参加停止

 その一方でミルゾヤン准教授は、ロシアが西側を破壊しようとしているわけでないということも重要だと指摘。それでも、ロシアは西側がロシアを破壊しようとしていることを黙認するわけにはいかないと強調する。

 「新STARTの拒否はロシアと西側の対立の危険性を大きく高める。米国も西側諸国がこの先もウクライナへの兵器供給を続ければ、ロシアが国際情勢のエスカレートにつながる措置を取ると明らかにしている。西側はこれまでも危険性についてシグナルを送っていた。

 だが、米国はそれに疑問を持ち、ロシアは厳しい対抗措置は取らないと高をくくった。西側が紛争を長引かせ、ウクライナを積極的に武装させる間、ロシアは受動的に動くと思っていたのだ。ロシアがウクライナ側の条件で西側と何らかの協定を結ぶという観測さえあった」


プーチン大統領 - Sputnik 日本, 1920, 21.02.2023 
【ライブ】プーチン大統領 議会で年次教書演説


 だが、プーチン大統領は年次教書演説で、ロシアは厳しい対抗措置を取るとはっきりさせた。それには核実験の可能性など核の分野も含まれている。

 「これはエスカレーションに向かうには十分に深刻なステップとはいえない。バイデン大統領は西側が思い切ってウクライナに兵器を供給できるよう、ロシアは『紙のクマ』だと説明して欧州を納得させた。一方、プーチン大統領は新STARTを拒否することで、ロシアがエスカレーションと長期的な消耗戦の準備ができているとみせつけたのだ」

 また、これに対して米国やその同盟国からどういった対抗措置が返ってくるかは、現段階では推測することしかできないとミルゾヤン准教授は話す。だが、西側の最初の反応の場は、ポーランド訪問中の米国のジョー・バイデン大統領の演説となるだろうとしている。


◆第一次戦略兵器削減条約
(START、英:
Strategic Arms Reduction Treaty、 START)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 第一次戦略兵器削減条約は、米ソ両国の間で1982年にSTART(STrategic Arms Reduction Talks、戦略兵器削減交渉)として開始された交渉の中で結ばれた。 なお、1987年には同様の軍縮条約としてINF全廃条約が調印されている。

 条約の交渉は、ソ連がアフガニスタンに侵攻(1979年)したことで再び過熱した新冷戦が、1985年頃緩和したことに伴って促進され、1991年7月31日にモスクワのクレムリンでアメリカ大統領のジョージ・H・W・ブッシュとソ連大統領のミハイル・ゴルバチョフとの間で調印された。

 米ソは保有する戦略核弾頭数の上限を6,000発、ICBM、SLBM や爆撃機など戦略核兵器の運搬手段の総計を1,600機に削減されることとなった。さらに、弾道ミサイルへ装着した核弾頭数も4,900発に制限された。条約履行の確認のために査察・監視も条約に盛り込まれている。これらは条約発効後7年で達成されるとした。

調印後

 ソ連の崩壊に伴い、条約の継承国はアメリカとロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンになった。条約の批准は、ソ連崩壊により1994年まで遅延した。旧ソ連の核弾頭については、ベラルーシなどからロシアに移送され、ロシアが解体を行った。

 米露両国は2001年12月、弾頭数の削減が終了したことを宣言している。

 1994年12月に発効したSTART Iは15年間有効であり、遅くとも失効する前年までに延長するかどうかの会合を行うこととなっていた。2007年7月、米露両国は2009年以降の核軍縮について交渉を始めると発表した。

 2009年12月グリニッジ標準時5日午前0時(日本時間同日午前9時)、START Iは次の条約を締結することなく失効したとされたものの、2003年発効のモスクワ条約(SORT)第2条において、START条約の条項が引き続き有効である事が米ソ両国において確認された[1]。

 2010年4月、新戦略兵器削減条約が調印。2011年2月5日にアメリカとロシアの間で発効した核兵器の軍縮条約である。

条約の内容

 米ソ両国は、下記の条件に基づき各種兵器をそれぞれの数の核弾頭として計算し、条約発効後7年以内に核弾頭保有総数6000発を超えない様削減するものとされた。
核運搬手段 定 義 保有制限数
(核弾頭としての換算式)
具体例
(条約締結時)
ICBM
及びSLBM
(1) ICBM…射程5500㎞以上の弾道弾[3]
(2) SLBM…潜水艦から発射される射程600㎞以上の弾道弾[4]
(1) 再突入体1基を1発の核弾頭に換算する
(2) 条約署名時に配備済のICBM、SLBM搭載弾頭数については本条約「了解覚書[5]」に指定された数とする。
(3) 条約署名後に配備されたICBM、SLBMの弾頭数については、発射試験時の再突入体の最大搭載数とする。
(4) 根本的に新しい弾頭機構を持つICBM、SLBMについては、最大投射可能重量の40%を、最も軽量な再突入体の重量で割った結果の最も小さい整数以上を弾頭数とする[6]
リスト[7]
重爆撃機 ・下記(a)又は(b)の両方又はいずれかを満たす爆撃機[8]
(a) 航続距離8000㎞以上[9]
(b) 長距離核ALCM(空中発射核巡航ミサイル)[10][11]を運用可能
・アメリカ合衆国
(1) 重爆撃機150機までは1機あたり10発の核弾頭にカウントする[12]
(2) 150機を超える場合、超過分は実際に搭載可能な長距離核ALCM数に基づいて保有核弾頭数に加算する[13]
・ソビエト連邦
(1) 重爆撃機180機までは1機あたり8発の核弾頭にカウントする。
(2) 180機を超える場合、超過分は実際に搭載可能な長距離核ALCM数に基づいて保有核弾頭数に加算する。
・共 通
特定の例外を除き、定義(a)を満たすが(b)を満たさない重爆撃機は、1機あたり1発の核弾頭と換算する。
・重爆撃機[14]
米国B-52、B-1、B-2、ソ連Tu-95、Tu-160
・長距離核ALCM
米国AGM-86BAGM-129、ソ連AS-15A、AS-15B( RKV-500A およびRKV-500B)


新戦略兵器削減条約(New START)
 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

新戦略兵器削減条約
英: New Strategic Arms Reduction Treaty
Obama and Medvedev sign Prague Treaty 2010.jpeg

プラハで批准書に署名し、握手を交わすアメリカ大統領のオバマとロシア大統領のメドベージェフ

 通称・略称 新START
 起草 2010年3月26日
 署名 2010年4月8日
 署名場所 チェコのプラハ
 発効 2011年2月5日
 締約国 アメリカとロシア

主な内容 核兵器の軍縮条約
関連条約 第一次戦略兵器削減条約

 新戦略兵器削減条約(新START、英: New Strategic Arms Reduction Treaty、New START)は、2011年2月5日にアメリカとロシアの間で発効した核兵器の軍縮条約である。

概要

 第一次戦略兵器削減条約(START I、1991年)は2009年12月5日に次の条約を締結することなく失効した。そのため後継条約の締結を決議していたが、2010年3月26日、アメリカ大統領のバラク・オバマとロシア大統領のドミートリー・メドヴェージェフが電話会談し最終合意に達したと発表した。

 新条約は4月8日にチェコのプラハで署名式が行われ調印された。この条約はアメリカ議会上院とロシア議会の批准により発効となる。

 この条約は米露両国に対して条約発効後の7年以内の履行を規定し、発効後の有効期限は10年間で最大5年の延長を可能とする。条約の履行の検証については、米露両国政府による相互査察により確認する。

 この条約の発効や履行の障害となる要素として、ミサイル防衛についての米露両国政府の認識の差異や主張の対立がある。第二次戦略兵器削減条約(START II、1993年)はアメリカ議会上院が批准したがロシア議会が批准せず、履行時期の2007年までの延期とミサイル防衛の制限を規定した追加議定書はロシア議会が批准したがアメリカ議会上院が批准せず、結果として発効しなかったが、ミサイル防衛についての米露両国政府の認識の差異や主張の対立は新戦略兵器削減条約(新START、New START)の交渉や署名においても解消されていない。

 この条約は前文と16の条文と154ページの議定書で構成されるが、ロシア側が求めていたアメリカのミサイル防衛計画の制限には規定していない。ロシア政府は米露両国政府間でミサイル防衛について合意できていない部分がある、アメリカのミサイル防衛システムの配備により、ロシアの戦略核戦力が減少または無力化される場合はロシアは条約を破棄する権利を持つと表明した[1]。

 2010年9月17日に、アメリカ上院外交委員会は批准承認を決議し、さらに2010年12月22日には、アメリカ上院は条約を批准した。2011年1月25日にはロシアの下院が批准、2011年1月26日にはロシアの上院が批准した。

 アメリカの上院が批准した法案には、アメリカのミサイル防衛(MD)システムの開発と配備はこの条約に規制されないとの付帯条項を含んでいる。ロシアの上院と下院が批准した法案には、アメリカのミサイル防衛(MD)システムの配備が、ロシアの戦略核戦力を減少または無力化させ、アメリカとロシアの戦略核兵器戦力のバランスを不均衡にして、ロシアの安全保障にとって脅威になる場合は、ロシアはこの条約を脱退できるとの付帯条項を含んでいる[2]。 2011年2月5日開催中のミュンヘン安全保障会議において米ロ間で批准書の交換が行われ条約は発効した。

 2011年11月23日、ロシア大統領のメドベージェフは、テレビ演説で、アメリカなどが進める欧州ミサイル防衛(MD)計画への対抗措置としてカリーニングラード州(ロシアの飛び地)に新型ミサイルシステム「イスカンデル」を配備すると警告した。一方、アメリカ国務省は、アメリカの欧州MD計画に反発して、メドベージェフが「新START」からの離脱を警告したことについて、離脱する根拠はなく、計画を見直す考えがないことを明らかにした[3]。

 2021年1月26日、アメリカ大統領のジョー・バイデンとロシア大統領のウラジーミル・プーチンが電話会談し、同年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約を、2026年2月までの5年間延長することで大筋合意した[4]。ウクライナ侵攻のあった翌2022年の11月11日には11月下旬から12月上旬の間にエジプトのカイロで2国間協議を行うことが発表された[5]が、直前になって延期が発表[6]、アメリカ国務省によるとロシアから一方的に延期が通告されたという[7]。

 2023年2月21日、ロシアのプーチン大統領は、モスクワで行った年次教書演説で、新戦略兵器削減条約の履行停止を表明した [8]。

旧条約(START I)との比較[10]
旧条約
(START I)
1991年
新条約
(新START)
アメリカ ロシア
戦略核弾頭 大型 配備数 6000発 1550発 1550発
未配備数(備蓄) 数量制限なしに備蓄可能 数量制限なしに備蓄可能
戦術核弾頭 小型 配備数
未配備数(備蓄)
運搬手段 短距離核ミサイルなど
(射程500km以下)
大陸間弾道ミサイル
潜水艦発射の弾道ミサイル
重爆撃機(戦略爆撃機)※など
保有数(未配備分を含む) 1600基機 800基機 800基機
配備数 700基機 700基機
ミサイル防衛 対露MD網の構築を制限しない 対露MD網配備時には破棄する