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真夏の上信越を行くA
島々谷川の砂防ダム現地視察

青山貞一・池田こみち
環境行政改革フォーラム

18 August 2009 無断転載禁
初出:独立系メディア「今日のコラム」


 往復5時間、歩きながらこうしたお話を現場を見ながら伺うことができ、砂防ダムの実態を見ながら確認し、把握することができたことは非常に有意義であった。

 山道の脇には玉あじさいが今は盛りと咲き乱れ、フジバカマ、ホタルブクロ、フウロ草などの山野草も多数見られた。


たまあじさいの花


たまあじさいの花

 また、沢水が流れる崖縁にはアオダイショウやヤマカガシなどのヘビも見られた。


ヤマカガシがにょろにょろと出てきた!

 今回はオオタカなどの猛禽類の姿を見ることは出来なかったものの、この地域にはまだまだ多様な鳥類も生息しており、生態系が豊かであることが見て取れる。

 しかし、砂防ダム工事で土砂が大量に持ち込まれたことにより、上高地の天然記念物であるニオイヤナギが島々谷川の川沿いに立派に成長していたり、外来種やこの地域には本来生息していない植物も多数繁殖している様子が見られ、すでに環境破壊・生態系破壊が明らかとなっている。

 車をおいて歩き出してから小一時間ほどのところに3号砂防ダムがある。そこは水深が10m以上もあるとのことで、青々とした水が満々とたたえられまるで貯水ダムのようだ。





 コンクリートアーチ式のようなダム堤に開けられた二つの大きな穴からは水が勢いよく吹き出していた。

 湖面にはカルガモのような水鳥が3羽ゆったりと泳ぎ、とても砂防ダムとは見えない様相である。


島々谷第3号砂防ダム



 3号砂防ダムからしばらく行くと、道が二俣に分かれる。



 途中の水たまりに、高山蝶の一種、ミヤマカラスアゲハが多数飛来し、水分を摂取していた。


ミヤマカラスアゲハ蝶

 ミヤマカラスアゲハの羽は下の写真にあるように、玄光を発して美しい!



 左が南沢(徳本峠方面)、右が北沢(6号砂防ダム予定地方面)である。そこには、東電の発電用取水施設があり、トイレの設備がある。私たちは北沢方面に進路をとる。


東電の発電用取水施設

 さらに山道を上がって4号と5号の砂防ダムの現場の手前に二俣トンネルがある。ここは185mの長さで舗装されているほぼ直線のトンネルである。竣工は1982年12月である。



 工事費は2億円近くもかかっているという。懐中電灯を持参したが、直線のトンネルで出口からの光が届き、歩きやすかった。トンネルを抜ける風は一段と冷ややかで心地よい。


二俣トンネル

 3号から4・5号ダムまでの間にも度重なる洪水で削り取られた自然の川辺を「修復」したところが多数あった。まるで都会の河川のようにコンクリートで直線的に護岸してある島々谷川は痛々しくさえ見えた。それでも、水は澄み切って美しく夏の光にはじけている。


島々谷第5号砂防ダム

 また、道路整備により湧き水や山水の流れ方が変わり、道路に大量の土砂が流れ出て、扇状に広がっている様子が見られた。

 沢水が流れおちる沢の底部には蛇篭を積み上げたり、コンクリートの小さな砂防ダムと道路の下を通して川に水を流す暗渠も作られており、島々谷川はまるで土木工事の見本市のようでもあった。


左から田口氏、池田、巽氏

 二俣トンネルを出ると、まもなく、二つめのトンネル、鈴谷トンネルがある。ここは二俣トンネルよりやや短く、まっすぐで舗装されている。



 これも2億円近くの工事費がかかっている。このトンネルを抜けると、河川敷がやや広く、中州が出来ている。そこには二人ずれの釣り人たちがテントを張っていた。天候が変わればかなり危険な位置でのテントである。


鈴小屋トンネル

 鈴小屋トンネルは竣工が1985年10月、延長は152mである。



 私たちは、さらに上流の6号砂防ダム予定地を目指し、三つ目のトンネル「わさび谷トンネル」へと向かう。ここからの渓流と山々の風景はまさに絶景、秋の紅葉、春の新緑が一段と美しいという。


渓流と山々の風景はまさに絶景


砂防ダムがすでに5基設置され、6基目が計画されている島々川のワサビ沢にて

 トンネルの入り口はバーで一応塞がれているが、脇から簡単に入ることができた。



 ここは今までの二つのトンネルと異なり、予定地に向けてほぼ90度曲がっている488mもある長いトンネルである。竣工は1997年12月である。

 工事費は7億円という。一歩はいると中は真っ暗。懐中電灯の出番だ。道路は舗装されていない。


わさび沢トンネル

 ゆっくりと歩を進めて中央部分まできて道が大きく左にカーブし、ほのかに出口の光が差し込んでいる。このトンネルにはコウモリも生息しているようで、1羽が羽ばたき、トンネルの天井にぶら下がるのを見かけた。

 わさび谷トンネルを抜けるとそこはまさに崖。トンネルの出口で道は終わり、そこから先は島々谷川の渓流に向かって崖があるのみである。対岸には築堤予定位置に穴があるのが見えた。


わさび沢トンネルの終点。この先は断崖絶壁である!

 私たち一行は、そこで持参したお弁当を開き、一休み。


持参したお弁当を開き、一休み

トンネル名 竣工年 延長(m) 幅員(m) 高さ(m)
二俣トンネル 1982年 142m 4.5
鈴小屋トンネル 1985年 152m 4.5
わさび沢トンネル 1997年10月 488m 4.5
出典:渓流ネット

 トンネルを抜ける川沿いの冷たい風に吹かれながら一服することができた。

 お弁当をほおばりながら、いかに砂防ダムが無駄なものであるか、また無駄なだけでなく、様々な環境破壊をもたらす元凶となっているかを話し合った。


第6号砂防ダム工事用の水路バイパストンネル

 砂防ダムを造るために道路を造る。その道路整備で出た土砂を川に捨てる。それによって川幅が狭められ、洪水で対岸の蛇行部の土砂が削られて崖が崩れる。

 そこをまた補修するためにコンクリートで堤防を築く。最初の砂防ダムに水がたまり、土砂がたまり役に立たなくなったといってはまた上流に砂防ダムを造る計画をたて、そのために調査し、道路を造り、トンネルを掘る。どこまでも自然の川を食い物にする土木工事の連鎖である。


わさび沢近くの渓流で水生生物を見る

 そのあげく、先に整理したような悪影響が顕在化し、次第に美しい景観も豊かな自然も失われていくのである。人工構造物はいずれ劣化し朽ち果てていく、それをまた新たなコンクリートと鉄を投入しても同じことの繰り返しであり将来に明るい兆しは見えない。

 単にゼネコンや地元の土木工事業者が一時儲かるだけにすぎない。

 将来を見据えた国土の保全、環境の保護、そして財政の無駄をなくすためにも、このあたりで全国に5万4千カ所もある砂防ダムの実態を明らかにし、悪循環から抜け出すための措置を早急にとらなければならない。

 帰り道に島々谷川にいくつか架かる吊り橋を皆で渡った。ゆらゆらしてなかなかスリリングだ。


吊り橋の上で 筆者、青山貞一